11.04/08 男装の麗人
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 皆、「男装の麗人」は好きか?

 「別に…」という人は、今日はもうPCの電源を落として寝た方がいい。
 なぜなら、今回はハナからケツまで男装の麗人――「男装ヒロイン萌え」とはどうあるべきかについて語るからだ。
 ウインドウ右のスクロールバーを見てもらえれば分かるように、かなり長い話になる。かといって、「サブカルチャーにおける異性装の変遷」というようなアカデミックな話は全くない。ただひたすらに管理人個人の妄想だけを羅列している。そういうものに興味がない人は、たとえ数分であっても余分に睡眠をとる方がまだ人生にとって有意義だろう。

 今回改めてこのテーマに触れようと思ったのは、最近のTVアニメで男装ヒロインが登場したのが理由だ。
 インフィニット・ストラトスというアニメの「シャルル」という人物で、愛称はシャル。フランス出身の貴公子然とした容貌の美少年…と思いきや実は女の子というキャラだそうだ。







 ああごめん、これはシャルル・ドゴールだった。
 ドゴールは第二次大戦時のフランス軍人で、自由フランスという亡命政府を……ごめんどうでもいいよね。

 とにかく、今の世で男装ヒロインというのは貴重だ。まるきりいないわけじゃないが、どちらかといえば「男の娘」という女装のオカマキャラの方が目に付く。それを苦々しく思っていた管理人にとって、これは喜ばしいニュースといえた。
 しかし、ことの経緯を調べていて気になった点がある。件のアニメに登場する男装キャラは、初登場した次の回で主人公に男装が見破られ、その次の次では公にも男装を卒業してしまうらしい。
 いくらなんでも展開を急ぎすぎではないだろうか。男装ヒロインの葛藤とか、周囲の「アイツほんとに男か? なんだか妙に色っぽいよな…」的な疑念とか、描かねばならんことは一杯あるじゃないのさ。
 熟成期間を経ずして生肉に喰らいつくような性急さを感じるが、実際にアニメを観ていた男装の麗人萌えな方々はどう感じたのだろうか。
 いや、管理人も分かってはいるのだ。大量のヒロインが登場する萌えアニメで、メインでもないキャラに何話も費やして設定を掘り下げるのは無理だろう。

 でも管理人は考えたね。考えざるを得なかったね。
 “男装ヒロインをメインに据えた萌えアニメ”を1クール真面目に作ったらどうなるか」と。
 美少年転校生登場! CM明けに女の子と判明! などという韋駄天ハインツばりの快速展開ではなく、1クール13話みっちり使ってドラマを盛り上げるとしたら。とりあえず管理人なりに企画を考えてみたので聞いてほしい。いや聞きたくないっつっても語るけど。何者であろうと今日の俺を止めることは出来ん。



■第1話
 美少年転校生としてヒロイン登場。主人公と些細なことで衝突し、互いに悪印象を抱く。たちまち一触即発の険悪な間柄に。



■第2話
 いがみあいがエスカレートし、何らかの勝負で白黒つけることに。勝負の結果お互い認めあい、友人となる。



■第3話
 すっかり仲良くなった2人の日常を描く。主人公と一緒に遊びに行くなど、ヒロインの快活な面を前面に出す。このあたりから「実は女の子」的な描写を増やす。



■第4話
 友人として共に過ごすうち、だんだん隙が出てくるヒロイン。
 主人公との距離もより近づき、異性として意識するように(ここで正式に女性と判明)。





■第5話
 サブヒロイン登場。主人公を気に入り、積極的なアプローチ開始。まんざらでもない主人公と、内心穏やかでないヒロイン。


■第6話
 水着回。サブヒロイン、傲岸不遜なボディで主人公の篭絡を図る。鼻の下を伸ばす主人公。男友達という自分の立場に焦れるヒロイン。ドタバタが続くが、最終的には夜の海でいい雰囲気に。
 一方で主人公も徐々にヒロインを意識するようになり、そんな自分に戸惑うようになる。

■第7話
 サブヒロインがヒロインの秘密に気付き、口止め料として自分の恋をサポートするよう持ちかける。ヒロインはやむなく了承するが、抑えきれない恋心に苦しむ。主人公も事情は知らないながら、元気のないヒロインを気づかう。次第にギクシャクする2人。































■第8話
 イケメンのライバルキャラ登場。ヒロインの秘密を知っており、露骨に色目を使う。ヒロインは肘鉄を食わせるが、ライバルの策もあって主人公との距離は次第に離れていく。打ちのめされるヒロイン。





■第9話
 すれ違いからヒロインを拒絶するような態度を取ってしまう主人公。傷心のヒロインに付け入ろうと暗躍するライバル。サブヒロインが介入し、主人公はヒロインの秘密を知る。

■第10話
 主人公、自分の気持ちに整理を付け、ライバルと決着。晴れてヒロインと相思相愛の仲に。

■第11話
 デート回。クリスマスだしいっぱいイチャイチャするよ! とノリノリなヒロイン。初のデートを意識しすぎて緊張する主人公。多少ぎこちないながらもLOVE萌え展開に終始する。最終話に向けて別離を臭わせる描写を入れる。

■第12話
 決定的な別離の危機が到来。互いを強く想いながらも、この関係を続けることが不可能と悟る2人。状況の打破に向けて奔走する主人公。

■最終話
  核戦争勃発。主人公が世紀末荒野をバイクで疾走しつつ「俺の戦いはこれからだ」完

★BD・DVD特別編
 世紀末覇者を目指す主人公の戦いを描く。



 ラストが駆け足気味だが、管理人の言いたいことは大体伝わったと思う。「心の葛藤」に重点を置き、主人公とヒロインの関係の変化を念入りに描いていくわけだ。特に3〜4話あたり、ヒロインが主人公に抱く友情が恋に変化するあたりが最大のキーポイントであり、ここの出来で今後の展開が決まるといっても過言ではない。

 ヒロインの性別を視聴者にも途中まで秘密にしておく(推測はできるが)点は異論もあるだろうが、これは主人公が後に味わう「なんで俺はアイツにドキドキしてんだ…いやいや違う、俺はホモじゃねぇ!」という葛藤を視聴者にも味わってもらうために必要である。あまり長引かせると「もう男でもいいや」とシフトしていた人が混乱するので、導入部が終わるあたりがベストだろう。

 各話ごとに男装萌えシチュエーションを入れ込む予定だが、「女装回」と「家庭訪問回」をどこかに入れた方がいいな。男装ヒロインには欠かせないイベントですからねこれは。あと学園モノなら文化祭回もあった方がいいし、サービスシーンとして魔女チェック回もほしい。これをどう各話に配分するかだが…1話まるごと使うような余裕もないし、全部一つにまとめよう。


* * * * * * * * * *


 文化祭にて「女装メイド喫茶」をやることになり、看板娘(?)を仰せつかるヒロイン。女だとバレるんじゃとビクビクする反面、主人公に男友達じゃない自分を見てほしいとも思う、恋する乙女心。しかし主人公は前日ハメを外しすぎ、風邪で寝込んでいたのだった。
 そして夕暮れ時、熱で朦朧としている主人公の自宅に突然の訪問者が。







「風邪で倒れたって聞いたから、お見舞いに来たんだけど…迷惑だった?」

はて、なんで俺んちにメイド姿のアイツが? これは夢か?

「あ、この格好? い、急いでたから学校からそのまま着てきちゃった」

ああ、そういえばメイド喫茶やるんだったよな。こうして見るとやっぱ可愛いな…。でもアイツがうちに来るはずないし、じゃあやっぱりこれは夢か…。

「熱は…もう平気なの? よければ何か作ろうと思って、色々買ってきたんだけど」

そうか、分かったぞ。こいつは俺をたぶらかそうとする魔女だな! アイツに化けるあたりなかなか俺のツボを押さえ…いやいや友として許せん! ひん剥いて鳥居に吊るしてやる! 脱げオラァ!

「えっ、な、なに!? ちょっと…きゃあっ!」


 そして翌日、すっかり快復して登校してくる主人公。

 熱のせいか記憶が曖昧だけど、誰か訪ねてきたような…? そういやアイツ、なんだか俺と目を合わせようとしないけど、何怒ってんだろ。それにしても起きたら顔にアザができてたんだよなー。そんなに寝相悪かったかな?



 よし全部入ったな。我ながら見事なまとめだ。…いや待てよ。これだとヒロインが主人公宅に上がって看病→エプロン着けて料理→お粥あーん→別れ際、寝入った主人公の頬にキス☆というおいしい部分が丸ごと抜けてんじゃねぇか。
 うーん…料理とお口あーんは目隠しプレイ回に詰め込むか。いや別にアブノーマルなプレイとかじゃないよ。とってもほのぼのなノリです。こんな感じで。


* * * * * * * * * *


 文化祭のSMクラブ(主催:快楽拷問同好会)でアイマスクを試してたら外れなくなった主人公。これでは家に帰ることすら覚束ない。ヒロインに泣きつき、エスコートしてもらうことに。


「もう、バカなんだから…。ほら、肩につかまって。そこ階段あるから気をつけてね」

「おう、悪いな。…ん? んー?」(さわさわ)

「な、なに? くすぐったいよ」

「いや、お前ってずいぶん華奢だなーと思ってさ」

「そ、そうかな」

「つーか全体的に痩せすぎじゃね? 腰とかもほら」

「ひゃっ! ちょ、ちょっとやめて! どこ触ってるんだよっ!」

「おわっ、バカ、押すな! 落ちっ…うわぁああああ!」




 って感じのハプニングを挟みつつ下校するわけだ。途中、ハラ減ったからどこか寄ってこうぜなどと危機感のないたわごとを抜かす主人公を叱ったり、時には手を引いたりしつつ、家に到着したころにはもう夕暮れ。
 茶ぐらい出すから上がってけよと主人公。初めて入る主人公の部屋にちょっとドキドキなヒロイン。


「結構ちらかってるなぁ。男の子の部屋ってみんなこんな感じなのかな? …あ、DVDだ。何の映画だろ。……ん? 『魅惑の夫人・やよい』…。…こ、これって…」

「おーい、コーヒーないから緑茶でいいか?」

はっ!? う、うんっ! そそそれでいいですっ!」

「はいよ。緑茶な。えーと確かこのあたりに…」

「(あれ? そういえばまだ目隠ししたままじゃ――)ま、待って! お茶なら僕が入れるから!」

「平気だって、ポットの湯を入れるぐらい(ゴポポポ)ドッギャアアアアス!!

「ああやっぱり! ちょっと、大丈夫!?」


 んで、なんだかんだでご飯作ってあげたりお口あーんしたりするわけ。視覚を塞がれているせいで感覚が鋭敏になっている主人公は、今まで気付かなかったヒロインの甘い匂いに「おや、なんで女の子のニオイが?」となったり、体の柔らかさに驚いたりするわけですな。
 ヒロインも相手が見えてないということでガードがゆるくなりっつーか母性本能が発揮されていつもより半歩進んだスキンシップが色々と。
 具体的には、そうだな…前頭部を強打してのたうち回る主人公に「痛いの痛いの飛んでけー♥」とおでこをなでなでするとか。



 (男同士でこのシチュエーションはおかしくないか?)と思う主人公だが、なんだか心地いいしもうちょっとこのままでもいいかな…とおとなしく膝枕でなでなでされることに。
 そして別れ際、ヒロインの「じゃあ…明日ね」という優しい声がいつまでも耳に残り、なんだか落ち着かない主人公。今日はもう寝ちまおう! と手探りで部屋に戻ったはいいが、ヒロインの残り香でさらに悶々。挙句、当人には絶対言えないような不埒な夢まで見てしまい、翌日は何だか顔を合わせづらい。
 これが中盤以降、主人公の気持ちの変化の始まりであり……ってこれ30分の枠内に入るかな。冒頭のSMクラブの惨劇だけで20分くらいかかりそうなんだが。
 ていうか「お宅にお邪魔」と「看病」は主人公とヒロインを逆にしてもいけるんだよな。目隠し状態でのお宅訪問ならヒロインの方に隠さねばならない秘密がある分、そっちの方がエキサイティングになりそうな気もする。

 それと第10話をデート回にしているが、これは正式に「友達以上」の関係になってからのものなんで、それ以前の関係のデート回もないといかんね。主人公は普通に友達と遊びに来てるつもりだが、ヒロインだけが「これってある意味デートかな」などと意識して一人ドキドキするような。もちろん途中でチンピラに絡まれるイベントも必須だろう。具体的にはこんな感じ。


* * * * * * * * * *


 遊び回って帰宅途中、どう間違ったかデートスポットで有名な海浜公園に迷い込んだ2人。カップル達の熱気が立ちのぼる中、「僕たちは周りからどう見えてるのかな」とドキドキするヒロイン。一方「ここが今すぐ心霊スポットになればいいのに」などと後ろ向きな情念をたぎらせる主人公。
 無意識にメンチを切ってしまったか、見るからに凶悪そうなチンピラ達がぞろぞろこちらにやってくる。

「よう兄ちゃん可愛い彼女連れてるねぇ。ところで永劫回帰って信じる?」

「知るかボケ! おい、2人でやっちまおうぜ!」

 昆虫並みにシンプルなコミュニケーションに呆れつつも、彼女扱い(勘違い)されてちょっぴり嬉しいヒロイン。彼氏に守られる女の子というシチュエーションに憧れていたこともあり、「ボーリョクはよくないよ」と静観の構え。
 おおっとこれは主人公ピンチですよ? 海辺のデートスポットでフクロにされて砂浜に埋められてしまうフラグかー?

「ヒャッハー! ここでてめぇの死を永遠に繰り返してやんぜぇ!」

「上等だコラァ! てめーら全員善悪の彼岸までブッ飛ばしてやる!」

 ニーチェへの冒涜としか思えないやり取りを経て喧嘩をおっ始める主人公とチンピラ達。たちまち公園は喧噪に包まれる。
 怒号。交錯する拳。コンクリートに飛び散る血と歯のかけら。数の不利をはね返して奮闘する主人公の背後で、チンピラの一人が光りモノを抜いた。振り向いた主人公の眼に、冷凍サンマを振りかぶったチンピラが映る。拳を上げるよりも早く、横合いから飛び込んできたヒロインがその男を叩き伏せる。

「危なっかしくて見てられないな。そろそろ替わろうか?」

「ヘッ、余計なことしやがって。面白ぇのは…これからだろうが!」


 …って感じの甘酸っぱーいバイオレンスも交えつつ、萌え萌えな日常を入れ込んでいくわけですよ。
 あ、今気付いたけど入浴回と肝試し回と雪山遭難回と記憶喪失回とひとつ屋根の下回も入ってねぇじゃん。あと、不思議なチカラで唐突にネコミミが生えちゃう回もほしいな。あざとすぎだって? いいんだよ細かいことは。ネコミミがあれば皆幸せになれるんだから。




 やっぱりネコミミは萌えるな! これはテコ入れに使えそうだね!

 うーん、でもこんな風に希望を羅列していくと13話じゃ全然足りなくなるな。やはりここはエピソードの数を増やすのではなく、各シチュエーションのクオリティを上げていくしかないだろう。作画や演出も大事だろうが、重視すべきはこだわりですよ、こだわり。

 例えばサービスシーンにしても、露骨におっぱい! おしり! ふともも! などとやるのは男装的に好ましくない。あくまで慎ましく、隠しきれず漂い出るほのかな色香を大切にしたい。
 視聴者が感情移入する主人公も同様だ。一昔前のエロコメディのように、聞き分けのねぇ息子ですいませんねグヘヘ! などという下半身直結的なノリはふさわしくない。こちらも繊細な心の動きを、例えば階段から転げ落ちそうになっているヒロインを抱きとめた際に……なに?「はずみでおっぱい揉んじゃうんですね分かります」だと? 今まで何を聞いてたんだね君は。慎ましさというものが分かっていないようだな。そんな即物的な展開じゃなく、もっと主人公の内面を描こうというのが今回の主旨だろう。抱き止めた体の細さに驚いたり、伏せた睫毛の長さにドキっとしたり、触れた唇の柔らかさに心乱されたり。そういうのを丁寧に積み上げ、主人公の中でヒロインが「気のあう男友達」から「世界で一番大切な女の子」に変化していく過程を描写するのだよ。

 それとこれは個人的なこだわりだが、男装ヒロインは「カッコよくある」のが望ましいと思う。女性の柔らかな部分を内に秘めたスタイリッシュな装いこそ「男装の麗人」の本流だろう。
 たとえそれが偽りの殻で造られた虚しいカッコよさだったとしても、それはそれで内に隠した「乙女」の部分との対比が、哀しみを含んだ儚い美しさに繋がる。
 そしてこれは後に主人公がヒロインを女の子だと知った時に、より一層の愛おしさを増す要素にもなりうる。


 見かけより、ずっとタフなやつだと思ってた。
 背中にお前がいると思えば、どんなヤツらが相手でも負ける気はしなかった。
 でも、お前の体――こんなに細かったんだな。


 と、クライマックスでヒロインを抱きしめながら述懐するようなね。分かる? ねぇ、俺の言いたいこと、ちゃんと分かってる?(←熱病に浮かされた患者の眼で)

 ヒロインと主人公についてのみ語ってきたが、もちろん周りを固めるサブキャラクターも大切だ。例えばクラスの悪友たちは、序盤〜中盤は(鈍感な主人公が気付かない)ヒロインの女らしさに反応する役どころであり、終盤ではイイ雰囲気になりそうな2人をナチュラルに邪魔する存在として重要な意味を持つ。カレーで例えればジャガイモのような存在である。

 女性キャラはあまりいなくてもいいと思うが、ヒロインにとってライバルとなるサブヒロインは必要だろう。女としての自信にあふれ、臆することなく主人公に言い寄る彼女の存在は、主人公とは別方向からヒロインの「女性」の部分を引き出す重要な役どころである。カレーで例えれば福神漬けですな。
 聞いてる? ここ大事なとこだよ? ちゃんと聞いてる?(←瞳孔の開いたギラつく眼で)

 女性キャラなら、ヒロインが女だとは知らずに一目惚れしちまう後輩の女の子とかもいいね。若干ヤンデレを患ったサイコ野郎で、己の妄執で世界を創り上げ、その中にヒロインを囲い込もうとするようなゴスロリ系メスゴリラ。
 その秘めたる狂気を見過ごしていたヒロインはあっさり罠にはまり、気付けば後輩ちゃんの部屋のベッドに手枷足枷付きで転がされているという大ピンチに!

「センパイの肌って、とてもキレイですね、うふふ…。わたし、ずっと探してたんです。下品な雄の臭いのしない、中性的な美しさを持った男性を。恋人にするならそんな人がいいなって…ううん、そういう人じゃなきゃ絶対イヤって思ってたんです」

 これで女だとバレようものならヘタすると命が危ない。この清潔感ある部屋が瞬時に地獄の一丁目となるのは目に見えている。…ていうかこの部屋、妙に昆虫の標本が多いよね? おおっとここでヒロインの携帯に着信が。

「あー、俺だけど。今どこいんだよコノヤロー。俺の廊下で正座タイムが終わるまで待つって話だったろ(プツッ)

「…これ、あのモヒカンの人ですよね? わたし前から思ってましたけど、あんな下品な面した野郎はセンパイの友達にふさわしくないです。もう会わないでください」

「い、いやその…あれで結構いいところもあるんだよ?」

「大丈夫、センパイにはわたしがついています。センパイのすべてを受け入れてあげます。だからもう、無理して嫌な人と付き合わなくてもいいんです」

<着信音>

「うおーい、切んなよ。正座で足痺れちまって歩けねーんだよ。このままじゃ家にも帰れな(プツッ)

「さぁ、センパイ? わたしと約束できますよね? もうこの人とは会わないって。センパイもそう望んでるじゃないですか。さあ、わたしと――」

<着信音>

「今立とうとしたら超ビリッときた! つーか立てねぇ! もう俺泣きそうだよもぉおー! こっちきてオンブしてくれよおー!」

うるっせーぞコラァア!!不出来なジャガイモみてーな面して人語を発してんじゃねぇ! 殺すぞ!! 痺れてんなら足切って死ね!!
 …ってこの携帯の持ち主から伝言です」

「――――ッ!?」

「……(プツッ)」

「うふふ。これで邪魔者はいなくなりましたね。さぁセンパイ、二人で愛欲の地獄へ堕ちましょう。わたしたちは二人でひとつ。たとえ神だって引き裂くことはできないんですから。 そぉーれ!!」

「わっ!? ちょ、や、やめて脱がさないでぇええええ!!」


 決定的な危機に至る直前、どうにか後輩ちゃんを殴り倒して脱出できたヒロイン。しかし翌日、主人公の態度が冷たい。「は? なんスか? 俺みたいなジャガイモの出来損ないにお声をかけてくださらなくても結構っスよ?」
 あれは後輩の女の子が…と弁解しても聞いてもらえず、体育倉庫の裏でひとり膝を抱えて泣くヒロイン。


 大変長くなったが、男装ヒロインにはとても豊かな可能性があることをお分かりいただけたと思う。そろそろ付き合いきれんと思ってる人もかなりいるだろうが、正直言うとこれでも全然足りてない。その気になれば4月から3月の卒業に至るまで1年分のイベント考えられますよ。

 最初は絵をひとつふたつ入れる程度で軽く書き、最後に歴史上の男装の麗人に少し触れて締めと考えていたのだが、シチュエーションがとめどなく湧いて出て、それを列記してるだけで予定を4倍くらいオーバーしている。自分でもちょっと驚き。
 あ、また思いついた。物語をハッピーエンドで締めるため、ラストは主人公とヒロインの結婚式ってのはどうかな。ベタすぎだろって? いやいや男装ヒロイン的にはそれくらいがいいんだよ。
 同じ年頃の少女のようにお洒落もできず、恋の悩みを相談できる女友達もいない。周りにいるのはむさ苦しいモヒカン連中だけ。そんな青春を送らざるを得なかったヒロインが、心の奥底に温めてきた乙女チック☆ドリーム! それを昇華するのにこれ以上の舞台があろうか?
 具体的にはこんな感じ↓

 ライバルに拉致されたヒロインを助けに廃教会に乗り込んだ主人公。そこにはウェディングドレス風拘束衣を着せられたヒロインが! 乙女の憧れを嘲笑うような悪趣味さに怒りを滾らせる主人公の前に、神父のコスプレをしたライバルが得意満面で登場。「お前らのために最高にクールな結婚式をプレゼントしてやるぜ!」そしてゾロゾロと現れる、武器を手にしたチンピラ達。
 圧倒的な数の敵に叩きのめされ、床に這う主人公の耳にライバルの哄笑と悪意に満ちた台詞が響く。 「汝は病める時も死にかけてる時も、このメス犬を愛すると誓いますかァ?」
 続いてボールギャグを噛まされたヒロインにも同様に、しかしさらに卑猥で下劣な言葉で誓約を迫る――。

 ほっといたら鬼畜系エロ漫画になりそうな展開からどうにかして逆転し、主人公&ヒロイン(特殊警棒2刀流)がバック・トゥ・バックで大暴れ! スローモーションでアホどもを華麗に蹴散らすぜ! ついでに鳩も飛ばすかー!
  ……ごめんやっぱこれは無しにしよう。主人公とヒロインの脳内キャスティングがこんな感じになりそうだ。どっちか一人死んじゃうフラグだよこれ。

 いやもうマジで終わりそうにないなコレ。ていうか今年いっぱいこのネタで更新いけるわ。さすがに実行する気はないけど。


 ていうかアレですな。今回はアニメ化をシミュレーションしてようというのが一応の目的なのだが、見直してこれが売れるかと考えるとちょっと心もとない。ヒロインが実質一人という一点突破的な作りだけに、萌えアニメとしてはいささかリスキーだろう。

 「ヒロイン全員が男装美少女のハーレムアニメにすれば解決なんじゃね?」と思った人。貴方も全然ワカってねぇな。ちょっとそこ座れ。正座だ。いいかね? ビーフカレーとシーフードカレーとカツカレーと納豆カレーを全部混ぜたら、万人が満足する素敵なカレーになると思うかね? そういうのは下品というんだよ。

 しかしながら、その品性に欠けた発想が萌え市場ではわりと歓迎されるのも事実だ。数を増やせばリスクは分散できるし、何より多少の話題にはなる。
 「ヒロイン全員が男装美少女!〜ボクたちの秘密、教えてあげる♥〜」という具合に宣伝すれば、それなりに注目はされるだろう。

 だが、数撃ちゃ当たる方式の男装の麗人モノにどれほどの価値があるというのか。人数が増えればその分葛藤も切なさも分散され、個々の味付けが薄くなる。話題になりさえすればいいのなら、全員美少年のボーイズラブアニメとして発表し、4話くらいで実は全員男装でしたと方向転換する方がマシだ。
 前代未聞の詐欺アニメとして公式ブログが炎上する様が目に浮かぶが、名前を売ることはできる。その中から支持層をつかめるかどうかは作品の出来次第だろう。まぁ管理人はそんなもん支持しないけど。

 これらを踏まえ、男装モノの持ち味を殺さずに売れる要素を盛り込むとすれば…やはりバイオレンスしかないな。男の子の三大快楽原則は「エロ」「暴力」「スピード」というのが管理人の持論だが、幸いなことに学園モノはこれらを無理なく取り込むことができる。
 上で挙げたような突発的乱闘に加え、族がらみのキャノンボール・レースとか他校への殴り込みとか世紀末荒野とかを入れていけば、そっち方面がダイスキな方々も取り込めるかもしれない。管理人とか。

 というわけで、男装ヒロインブームを呼ぶためにもアニメ業界は筋肉と暴力の増量に励んでいただきたい。更なる萌えを追及するためには、そういう土台づくりも必要だと思う。皆そう思ってるんじゃないかな。思うよね? 思うって言え。



追記:
 このネタを書いている途中、もうひとつ「男装ヒロインものアニメ」が存在することを知った。「まよチキ!」というライトノベル原作のアニメだそうで、故あって男装しているヒロインと女性アレルギーの主人公のラブコメらしい。で、これもまた初っ端から男装バレするとのこと。どいつもこいつも……。
 まぁ、理由は分かる。「2人だけの秘密の関係」という特殊なシチュエーションから徐々に両者の変化を描くのも、ラブコメとして正道の作りだろう。
 しかしそれでも管理人は、“知られてはいけない秘密/知って欲しい想い”という葛藤こそ、男装ヒロインの持つ一番の魅力であると信じ疑わない。友情と恋のせめぎ合いみたいな感じでさ。

 主人公との友情――それが男装という偽りの姿がもたらしたものだったとしても、共有してきた時間は何ものにも代えがたい貴重なものだ。しかし友人として距離が近付くほど、秘密を打ち明けるハードルも高くなる。女だと打ち明けることで、友達という関係すら失うかもしれない。
 主人公が少しづつ秘密に感付きつつあることも知らず、思い悩むような姿が見たい。真摯な想いはシリアスな描写でもコメディタッチでも面白くなるものだ。

 でもよく考えたらこういうノリって、萌えアニメというより少女漫画に近い気がするね。


追記:
 上のネタでヒロイン及びライバルの得物として描いた特殊警棒だが、個人的にわりと好きな武器である。凶器には違いないが、刃物と比べ「シャレにならない度」は低いし、木刀や金属バットのような物々しさもない。つまり学園モノでも気軽に出せる武器なのだ。
 特殊警棒が大活躍するアニメとかあるかな? と思って検索してみたら、Yahoo知恵袋で次のような質問がひっかかった。

・特殊警棒による殺陣がある映画やアニメはありますか?あったら教えてください。

 やはりというべきか、アニメではあまりないようだ。シャフト部を振り出して伸ばすアクションも含めて動画向きだと思うんだがなぁ。あとあれだ、リーチ短いからマーシャルアーツとの相性バツグンよ? 作るの大変そうだけど。
 とはいえ魔法少女やロボットもので特殊警棒を活躍させろというのも無理な話なので、まず土台づくりとして、アニメ業界に学園アウトローとかストリート系バイオレンスの風を吹かせるのが先かもしれん。
 そういや過去に「TOLKYO TRIBE2」がアニメ化されたが、あれの人気はどうだったんだろう。原作だとロン毛のイケメン君が肥満体の巨漢に陵辱されたりしたけど、そこらへんも再現したのかな。

 ちなみに上記Yahoo知恵袋で紹介された作品の中で、管理人のお勧めは「SPL(殺破狼)/狼よ静かに死ね」だ。香港ノワール+カンフーという、まさしく管理人のような人間のハートをガッチリ掴む映画で、ドニー・イェンが荒くれ刑事、サモ・ハン・キンポーがマフィアのボスに扮して好演している。サモも結構な年だろうに、バリバリ体動くね。
 ラストにちょっと釈然としないものを感じるが、匕首を使う殺し屋にドニーが特殊警棒で渡り合うシーンは必見。


追記:
 上の方で「こりゃ売れないな」みたいなことを書いたが、金策としていい方法を思いついた。魔法少女アニメがマジカルステッキを商品化するのと同じビジネスモデルでいけばいいではないか。
 具体的にはノーベル社あたりと提携して特殊警棒を売るわけだ。萌えグッズとして。他にも劇中に登場するブラスナックルとか木刀とか金属バットとかサブマシンガンとかを販売すればよい。最後のおかしいだろって? 大丈夫大丈夫。学園モノでも9mmまでならセーフです。



■参考
Wikipedia→シャルル・ド・ゴール
Wikipedia→特殊警棒


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