12.09/28 その180 Max Payne 3――悪党は0.2倍速で死ぬ





俺と銃と悪者だけ。選べる道は、もう一つしか残されていなかった。


 これは初代『Max Payne』における台詞であり、今現在も管理人のゲームライフの9割に当てはまる定義である。ちなみに「悪者」の部分はゾンビだったりエイリアンだったりテロリストだったりと場合に応じて変わる。
 たまには「俺と銃と萌えキャラだけ」みたいなゲームもやってみたいものだが、キューなト女の子が顔面に大穴あけて死んでも困るので、当面は悪党その他でいいかなと思っている。

 冗談はさておき、バレットタイムTPS『Max Payne3』がついに日本でも発売された。待ち望んでいましたよこの時を。何せ管理人にとっては洋ゲーの原体験であるシリーズ最新作である。
 とはいえ、個人的には不安要素の方が大きかった。前作『Max Payne2』からすでに9年、初代から数えると11年も経っているだけに、このシリーズの特色であった要素はすでに使い古されてしまった。スローモーション演出も、フィルム・ノワールを思わせるストーリーも、今やそこら中にありふれている。
 残されたのはカビの生えかけた看板だけ。「あのMax Payneの最新作が出る!」という売り方をするにはいささか時間が経ちすぎてしまった。

 だが、蓋を開けてみると2012年現在でも十分に通用するバイオレンスアクションシューティングに仕上がっていたことに驚いた。それも基礎はほとんどいじらず、大胆な新要素も加えずに、である。
 これはおよそ10年前の――現代では切り捨てられたスタイルが、実は今も立派に通用する面白さを秘めていたことの証左であり、同時に制作を担当したRockstar社のみごとな調整力を証明するものでもある。

 本作は傑出したTPSだと声を大にして賞賛したいが、その一方で制作の一部担当者を業界から追放したいくらい酷い部分も併せ持っている。後で詳しく述べるが、これほど極端な長所・短所を備えたゲームも稀だろう。
 今回はそのへんを色々と書いていきたいが、二挺拳銃とスローモーションに興味がないという人には退屈な話になるだろう。そういう人はPCの電源を落とし、スリーピング・ドッグスでもやっていた方が有意義だと思う。


■キャラ萌え編

 管理人は本作の第一報から情報を追ってきたが、実のところ少々「まぁ…楽しみではあるけどさ…」という素直に期待できない思いがあった。理由の一つは主人公マックスのビジュアル変更である。初代は黒いジャケットがかっこいい兄ちゃんで、2ではジャケットはそのままに渋みの増したダンディになっていた。しかし、3のマックスはこんな感じである。





 ああごめん、こりゃコスプレの方だった。
 実際のゲームではこんな感じね。




 正直これはどうなんだと。Max Payneはスマートな(かつ外連味たっぷりな)カッコよさを追求したゲームではなかったか。これではブルース・ウィリス的な泥臭い肉体派アクションである。もちろんそういうのも大好物だが、馴染みのラーメン屋がいつの間にか牛丼屋に変わって「どっちも好きだから問題なし」というわけにはいかない。

 だが、結果としては心配するに及ばなかった。
 本作はマックスの回想シーンをまじえて舞台がたびたび変わり、その中にはジャケット姿の都会派オヤジなマックスも登場する。全体として見ると、スキンヘッドマックスの出番は全体の4割くらいだろう。
 そもそもキャラデザなんてゲームが面白ければ何でもよく見えてくるものだし、何より管理人が発売前からキャラ萌えするゲームは微妙ゲーになるというジンクスがある。今のところ例外はGOWとドリクラくらいのものだ。ドリクラは微妙だろという意見もあるだろうが、ファンがしっかりついてきていた点で多くの微妙ゲーよりはるかにましである。


■ガンファイト編

 ゲームの核であるシューター部分のシステムは、実は1作目からあまり変わっていない。バレットタイム&シュートドッジというお馴染みのスロー能力や、自動回復ではない体力など過去作の基本システムをそのまま受け継いでいる。今や必須となったカバーアクションを導入してはいるものの、それ以外に目新しいシステムはほとんどないといっていい(この古風さが今は斬新ともいえるが)。
 むしろ手榴弾のような投擲武器がなくなった(対戦では使用可能)ぶん、要素としては減っているともいえる。

 こう書くと古臭くてショボいゲームのように感じるかもしれないが、実際プレイするとやたら面白いのだ。「シューターとしての面白さ」と「演出のカッコよさ」を高いレベルで両立させており、さらに「狙い撃つ面白さ」を他のゲームより一歩進めている。

 本作は体力が自動回復ではなく、弾丸も有り余るほど豊富ではない。適当に弾丸をバラまくようなずさんな戦い方ではジリ貧になるため、素早く的確にヘッドショットを決めることが求められる。それを助けるのが本作のスロー能力「バレットタイム」&「シュートドッジ」なのだが、これは初代と比較して使い分けがはっきりしている。
 バレットタイムはどんな状況でも瞬時に発動できるので何かと使い勝手がいい。一方シュートドッジは出がかりと着地に隙があり、放物線を描いてダイブするため狙うにもテクニックがいる。その代わりダイブ中は銃弾を食らっても死亡することがなく、ゲージ残量が0でも使用できるという強みがある。
 これらに加えてカバーの存在が「どっちで攻めるべきか」と戦術を練る間を与え、さらに積極的に回り込んでくる攻撃的な敵AIが緊張感を途切れさせない。
 こういうシューティング要素が見事に絡み合い、時としてアクション映画的のワンシーンのように映える。バーカウンターの陰に隠れて敵の銃撃をしのぎつつ、一瞬の隙をついて飛び出しつつシュートドッジ。ひっくり返ったテーブルの裏で体勢を立て直しつつ、リロードして反撃……といった流れが、上手く決まれば「今の俺スゲェかっこいい!」とテンションを高めてくれる。
 またTPSは総じて銃声が軽い傾向があるが、本作はかなり重くて迫力がある。そのあたりも含め、銃撃戦ゲーとしてハイレベルなゲームであると思う。

 後の方で述べるが、本作はある重大な欠陥によってリプレイ性が著しく損われている。にもかかわらず何度もプレイしたくなる魅力がある。


■武器・武装編

 FPS/TPSの魅力の一つに、実在する多彩な銃器を思うさまブッ放せることが挙げられる。銃に興味のあるゲーマーの多くが自分の“嫁”を持ち、ゲーム中の扱いに一喜一憂するのはよく知られているところだ(例:俺のF2000が産廃すぎて辛いorz)。ここ最近はミリタリー系シューターが幅をきかせていることもあり、グレネードランチャーや対戦車ロケット、大口径機関銃などの高火力兵器を使う機会も多い。
 それらと比較すると、本作の武器はあまり派手なものはない。グレラン・ロケランもありはするが出番はごくわずかだ。これは本作が徹底して「近距離での撃ち合い」を追求した結果でもある。結果としてそれはうまく機能しているし、プレイ感覚としては十分に派手である。バレットタイム&シュートドッジという強烈なアクセントがあり、また周辺環境の破壊描写も凝っているので、銃撃戦の迫力は凡百のFPSなど足元にも及ばないだろう。

 なお、本作の武装は「両手持ちの銃(ライフル等)」+「片手持ちの銃(拳銃、短機関銃)」×2となっている。メインとサブの計2つしか持てない最近の主流と比べ、いっぱい武器が持てるのは贅沢な気分になれて良い。
 過去作と比べて進化しているのは、それぞれの片手銃を併せて2挺持ちにできることだろう。これまでは「ベレッタ×2」「イングラム×2」が独立した武器扱いで、2挺持ちはそのふたつしかなかったが、今回はコルト+イングラムやリボルバー+ソードオフといった組み合わせも可能である。
 ひとつ不便なのは、2挺持ちを選ぶとその時点で持っていた両手持ち武器を捨ててしまうこと。そのため2挺持ちを積極的に使っていきたくとも、まずは両手武器を使い切ってからにしようと貧乏性な気分になってしまう。
 カバー中、ライフルを捨てて2挺拳銃を抜く動作はカッコいいんだけどね。


■バイオレンス編

 CERO-Z指定の洋ゲーアクションの常として、本作もまたバイオレンスな描写に力を入れている。首が飛んだり手足がもげたりはしないが、それでいて他より抜きんでている人体破壊描写がある。「弾痕」だ。
 敵をヘッドショットを叩き込んで倒すと、額にぽっかり穴が開く。こういう描写があるゲームは意外に少ない。床に倒れた込んだ死体が、その開口部から血を噴き出させる描写はかなりえぐい。
 極めつけが、エリア内の最後の敵を倒した際のスロー演出だろう。Sniper Elite V2のキルカメラと似ているが、この状態でトリガーを引き続けると、銃に残る全ての弾丸を叩き込むことができる。血飛沫の表現もまた力が入っており、ラストの敵をサブマシンガン×2で蜂の巣にするとえらいことになる。

 普通にプレイしていると気づきにくいが、着衣の上から撃った場合に血が滲む描写も再現している。このあたり「銃撃戦」という要素にどれだけ思い入れを持って作りこんでいるかがよくわかる。カタルシス炸裂のバイオレンス描写としては一級品だと思う。


■カットシーン編

 ここまでベタ褒めしてきたが……このゲームでどうしても許せない部分がある。

 カットシーンが異様に多くて長いことだ。

 しかもその間にデータを読み込んでいるため、それが完了するまでスキップもできない。特にチャプター終了→次のチャプター開始の間に挟まるシーンはやたらと長く、しかも実質スキップ不可能というくらいに延々と読み込みを続けている。これはHDDにインストールしても変わらない。

 これは控えめに申し上げてもクソ仕様という他ない。横文字で言うならグレイトにファッキンシットな仕様だ。根幹部分であるシューター部分を見事に作り上げておきながら、なぜそれにクソをトッピングしようと思ったのか? アクションゲームとしての緊張感とテンポを犠牲にしてまでカットシーンを挿入する理由など、銀河の果てまで探しても見つかるはずがないのに。
 初回プレイだけなら我慢できるが、大方のゲームに漏れず本作も周回プレイを推奨する作りになっているから始末が悪い。クソ長いクソ映像を2度も3度もクソ正座で観る気になるかどうか、考えずとも分かる話だろう。この仕様を決定した奴の頭の中をのぞいてみたいものだが、クソより上等なものが詰まっているとは到底思えない。

 中にはアクションゲームのカットシーンのお手本となるような見事なものもある。マックスが派手なスタントを決め、そこから流れるようにオートでバレットタイムに突入するシークエンスがいくつかあるが、これらは多少長くても全く気にならない。再プレイする際にも緊張感が途切れず、むしろ唾を飲み込みつつアクションの瞬間を待つようになる。
 だが、ストーリー部分のカットシーンは総じてダメだ。長いわ飛ばせないわ、さらに「こんなシーンををわざわざカットシーンにする必要があるのか?」というものも多い。使い方が全体的に下手なのだ。

 カットシーンそのものが珍しかった10年前ならまだしも、今のこの時代にウザったい動画を大量に入れて誰が喜ぶというのか。これをやらかした戦犯は、まだカットシーンが珍しかった10年前から今日まで冬眠していたのかと疑いたくなる。それならいっそ世界の終りまで寝ていてくれた方がゲーム業界のためには良かった。

 …いや、これは言い過ぎかもしれない。その人物も、プレイヤーに嫌がらせがしたくてこんな仕様にしたわけではないはずだ。仮にも天下のRockstarから仕事を任されているわけだから、本来なら賞賛されてしかるべき優れたスキルを持った人材なのだろう。何か不幸な行き違いが、結果として絶望的な失敗を招いてしまったに違いない。
 もしも宇宙が一巡することがあれば、今度はゲーム業界ではないどこか別の場所で活躍してほしい。あるいはどこか別の星に生まれて幸せになってほしい。
 次こそは皆が幸せになれますように。


■まとめ

 Max Payne3をまとめると、カットシーン部分に目をつぶれば十分な良作だと言うことができる。シリーズのファンはとっくに購入しているだろうが、それ以外の人にも広くお勧めできるゲームだと思う。
 GOWやCOD4からシューターに触るようになった人、最近のシューターはマンネリだと感じている人は是非遊んでほしい。クラシックなシューターの面白さを知ると同時に、今はやりのカジュアル系シューターが何を選び、何を捨ててきたかが分かると思う。
 ついでにいえば、アクションゲームと映画的演出の融合というテーマにおいて、最良の部分と最悪の部分が同居した珍しいケースでもある。そのへんを知る意味でも、一度は触れてみてもよいと思う。



追記1:
 カットシーンの仕様については今なお煮えたぎるような憎悪を感じるが、しかしクソ仕様のクソっぷりをクソ指摘するだけで終わるのは当サイトの流儀ではないので、このカットシーンを楽しむための工夫を管理人なりに考えてみた。


・自分もマックスの酒に付き合う

 本作は(初代と同じく)マックスが過去を振り返るモノローグで話が進められていく。全てを失った彼にとって、過去を語ることがどのような意味を持つのかは分からない。自己を見つめ直す一種の精神療法なのか、それとも傷と痛みをより深く刻み込むためなのか。ただひとつ言えるのは、語ることで癒やせるものは確かにあるということだ。
 想像してほしい。貴方とマックスが、安酒場のカウンターで隣り合って酒を飲んでいると。彼は乾いたユーモアをまじえながら、自分が歩いてきた道程を、自分が犯した過ちを、自分が殺した悪党たちのことを語り出す。彼が答えを求めているわけではないと分かっている貴方は、ただ静かに自分のグラスを傾ける。
 カットシーンの前ではプレイヤーは主人公ではなく傍観者の位置に立たされる。だが、それでよいのだ。マックスが味わってきた苦痛も後悔も貴方は感じることはできない。できることがあるとすれば、彼と同じ酒を飲みながら独白を聞くことだけだ。

 そういう妄想をしながら、時には渋い酒を嗜んでみてはいかがだろうか。これならカットシーンをスキップしようという気も起きなくなるだろう。そもそも、スキンヘッドで筋肉質の怖そうなオッサンに「その話は前に聞いたからもういいよ」と言えるだろうか? 少なくとも管理人にそんな勇気はない。
 高い妄想力を要求される遊び方と思うかもしれないが、キャラクター全てがオッサンになったドリームクラブだと思えばそう無茶な話でもない。どっちも主人公が酒を飲む(シーンがある)ゲームだし、見た目ほど違いはないと考える。


・あきらめてスコアアタックモードで楽しむ

 本作はクリアしたチャプターについてスコアアタックモードが解除される。こちらはステージ開始前と終了のクソ長いカットシーンが省略されるので、ずっと遊びやすい。ステージ中に挿入されるシーン(これも長いものがある)については相変わらずだが、「憎悪」が「イラつく」程度に低減されるのは大きい。

 ただスコアアタックモードにはひとつ妙な問題があったりする。ストーリーモードでクリアすると全チャプターのスコアアタックが解除されるのだが、新しく(例えばより高難度で)ストーリーモードを進めると、未クリアのチャプターがロックされてしまうのだ。
 ステージセレクトから最終チャプターの最終チェックポイントを選んで再度クリアすればまた全てアンロックされるのだが、ちゃんとデバッグしてんのかと言いたくなる。そのチェックポイントが簡単かつすぐ終わるからいいようなものの、激ムズだったりしたら目も当てられなかった。


・漫画や小説等を準備しておく。

 真面目な話、これが一番現実的な対処法だと思う。




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