07.01/24 その36 食読のススメ――「餓狼伝」「ワンダル・ワンダリング!」





 こんばんにゃ!(←噛んだ)。
 年末から勤務状況がバタつきっぱなしで、気を抜くと 「俺…この仕事が終わったらAVP2観に行くんだ…」と死亡フラグを口走りそうになる管理人です。

 まぁその近況とはあまり関係ない話だが、一人でメシ食う時には大抵何かをやりながら食べることが多い。 場所によって新聞読みながらだったりテレビ見ながらだったりするが、漫画や小説の場合もある。 その食事中の読書…便宜上「食読」とするが、食欲を増すのにふさわしいジャンルは何かと考えてみた。

 一番いいのは言うまでもなくグルメ漫画だろうが、それだと当たり前すぎるので省くと、 次点はおそらくバイオレンスアクションだろう。
 「またか。またそれか」と言いたいかもしれないが、ホントなのよ。
 誤解のないようはっきりさせておきたいが、管理人が愛するのは飽くまで「バイオレンスアクション」、 つまり“闘争”であり、暴力行為そのものではないという点だ。
 だから悪党が秘孔を突かれて爆裂四散するのは大好物だが、「殺し屋1」みたく「陰茎を縦に(割愛)」 というのはややストライクゾーンから外れる。いや、あの漫画はわりと好きで、結局全巻読んだんだけどね。

 こんなネタ→ どきどき魔女裁判!(仮) やっといて説得力ねぇよと思われるかもしれないが、ホントにホントなのだ。 漫画の評価は別にして食読には向かない。

 で、食読にお勧めの漫画はというと、やはり板垣恵介の格闘漫画全般だろう。 これまでの中でベストだと感じたのは「餓狼伝」11巻における、丹波vs堤の戦いだ。
 あのシーンはアクションとしての出来に加え、 その流れを途切れさせることなく丹波の様々な想いを描き切っており、 作中でも屈指の名シーンなのだが、食読的にいうと彼ら二人の肉体描写がとても美味しそうなのだ。

 バイオレンスの要諦は「肉体の破壊」にある。
 その上で「血」と「肉」の描写は必要欠くべからざる物であるが、 これはそのまま肉料理の描写に相当する。 躍動する筋肉が血と汗にまみれ、熱気をはらむ描写は、肉汁があふれて湯気を立てる肉料理に通じるものがある。 見ているだけで口の中に唾液が湧いてくるではないか。腹減ってる時は特に。
 以前この場面を読みながらラーメン屋で食事をしていたが、とても食が進んだ。 大してうまい店じゃないんだけどね。
 もともと板垣恵介は肉を食う描写(本来の意味で)が素晴らしいため、 格闘モノ以外の漫画を描かせるならグルメ漫画をやってほしいと強く思う。




 …では逆に、もっとも食読に向かない漫画はなんだろうか。  妥当なところではホラーやグロ描写のきつい代物だろう。個人差はあるだろうが、 例えば管理人なら「殺し屋1」の「乳首を(カット)」みたいなのはアウト。焼肉食えなくなっちゃうから。
 それともうひとつ。胸が「キュン☆」となるような甘酸っぱいものも結構くる。 胸が一杯になると、不思議に食い物も喉を通らなくなるのだ。 ここしばらくそういった作品には出会っていないが、 もっとも記憶に新しいのはこの漫画。





「ワンダル・ワンダリング!」
(全4巻+外伝1巻)



 記憶に新しいと言っても作品自体は結構古く、10年以上前の代物である。
 エルフのように耳の長い人々が暮らす世界を舞台にしたライトファンタジー漫画で、 絵描き志望の若者・タロサク(左上)と、彼の元に転がり込んできた 不思議な子供・ワンダル(中央のキジムナーみたいなやつ)の交流を描いた物語である。


↓ワンダル





 この漫画のどこがどう甘酸っぱいのかは後で述べるが、とにかく全体的なムードがやたら平和なのが特徴だ。 ワンダルは当初こそその耳の形状(我々人間のような耳)から、 凶暴で知られる「マルミミ族」とみなされて周囲からおびえの混じった視線を向けられるものの、 持ち前の明るさで打ち解けてゆく。

 また、保護者であるタロサクを筆頭に登場人物は心優しい人が多い。 中にはワンダルに危害を加えんとする悪者もいるが、 ヤク中のチンピラや食人嗜好僻のあるデブなどは出てこない。
 優しさが残酷な結果を生む悲劇的な展開もないし、 悪党が削岩機に突っ込まれてミートソースにされることもない。 刺激には乏しいが、それゆえに平和な世界を堪能できるわけだ。
 とはいえそれだけでは管理人の脳裏にいつまでも残ってはいない。 この物語の重要な魅力となっているのは、ワンダルの「変身」である。





 この通り、強い興奮状態に陥ると一時的に13〜14くらいの少年へと変わる。
 ワンダルはもともと並外れた怪力をもっているのだが、 この状態ではそれを振るって周囲に破壊と混乱を撒き散らすようになる。

 人間は極限状況におかれた時、脳がアドレナリンを分泌して限界を超えた力を引き出す。 「スーパーチャージ」と呼ばれるそれは肉体の防衛本能である痛覚すら麻痺させるため、 拳銃弾を喰らおうとも


 …いかん。ちょっと今、漫画の話そっちのけで変な方向に行こうとした。
 話を戻すが、この「変身」の魅力は別に破壊とかそういうのとは関係ない。
 ネタバレになるが、ワンダルの種族は成長過程で男にも女にもなれる可能性を持っており、 ワンダルは当初、ある理由により「強くありたい、たくましくありたい」 という潜在的な願望から「少年」への変身を繰り返す。
 しかし、物語中盤以降、庇護者であるタロサクとの信頼関係が強固なものになるにつれ「タロサクとずっと一緒にいたい」 との思いから





女の子に変身します。



 これも一時的な変身だけどね。
 タロサクとの結びつきが強くなるにつれてこの変身の出現度は上がり、 ハートフルでありつつ甘酸っぱい展開になってくる。もうキュンキュン来ますよ。

 後半からの登場とあって出番はそう多くはないが、この女の子ワンダルには独特の魅力があって困る。
 野性的と素朴とかではないんだよなぁ。確かに感情表現は開けっぴろげだし、やたら力持ちだし、 レディとしてのたしなみなどカケラもないが(そもそも中味は子供のまま)、 それでいて儚いイメージがある。そう、まるで春の陽射しの中にだけその姿を現す妖精のように。 悪党のジャンルで例えるならジャンキー系が近い。 極めてヤバそうだが耐久力はやたら低そうという部分が。いや待てよ。 アッパー系ドラッグでハイになってる奴だと逆に…


 ごめんまたそれた。ジャンキー云々は忘れて。
 そんなわけで、このワンダル(少女)とタロサクのやりとりが大変甘酸っぱくてね。 そこらへんで管理人はメシがのどを通らなくなった。
 終盤に入ると、ワンダルが「強くありたい」と願っていた理由が明らかになり、 それによって2人は引き裂かれそうになる。比喩です。物理的な意味じゃなくて。

 ワンダルをかけがえのない家族と認識し、また女の子ver.に強く惹かれつつも、 別れざるを得ない現実に直面するタロサク。
 かつて失った「ずっと一緒にいたい」人を再び得て、 それが形として実る直前にまた引き離されようとするワンダル。

 あの出会いの日からは想像もしなかった困難と、それを上回るお互いへの強い想い。 こりゃメシ食ってる場合じゃねぇ!
 改めて読み返してみたが、やっぱり良い。前半はひたすらワンダルとタロサク、 そして周囲の人々を牧歌的に描くことで、後半からの展開が活きている。
 今風にするなら女の子ver.への変身を最初から登場させてラブコメ的な展開にするのが妥当だろうが、 そうでないからこそ「暖かな物語」としてうまくまとまっているのだろう。


 と、いうわけで食読には向かない漫画として「ワンダル・ワンダリング!」を挙げてみた。 後半単なる懐かし漫画レビューじゃねぇのかって感じだが、まぁ脱線はいつものことだし…。
 今となってはもうこういった作品に手を出すこともないだろうが、 世紀末荒野みたいな管理人の脳内楽園の片隅に、 ひっそりと残ったこの物語を何らかの形で世に出しておきたかったというのが偽らざる気持ちである。


追記:
 二言目にはバイオレンスがどうの、と言っていた管理人が突如ハートウォーミング漫画のレビュー。 これって死亡フラグっぽくねぇか。くそっ、縁起でもねぇ! こんな話やってられっか! 俺は自分の世界に戻る!



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