09.09/30 その98 「出撃! 魔女飛行隊」――空を舞う魔女たちの翼






こんなこといいな♪ できたらいいな♪



あんな夢 こんな夢 いっぱいある〜けど〜♪




そーらを自由に〜飛ーびた〜いな〜♪



はい!





シュトルモビク!!











 冗談はさておき、最近「空を飛びたい」と強く思うようになった。
 いや、「ハレルヤ、おれは飛べる」とかそういう方向じゃなくてね。

 具体的に言うと空戦がしたいんですよ。冒頭で対地攻撃機のネタ振っといてアレだけど、ドッグファイトがしたいんですよ。
 レシプロ機で。
 機銃をバリバリ撃って。
 第2次世界大戦の戦場で。
 そういうフライトシューティングがやりたい。

 一応、360とPS3では「IL-2 Sturmovik: Birds of Prey」や「Heroes Over Europe」というフライトコンバットシムがありはする。しかし、両方とも日本語版の発売予定は無し。それのみならず、IL-2の360版はリージョンロックがかかっているせいでソフトを輸入しても日本の本体では遊べないときている(アジア版の発売予定もない)。
 さらに、日本のメーカーがそういうゲームを作る見込みは極めて少ない。昨今ではフライトシム/フライトシューティングそのものが冷え込んでいるし、オタカルチャー的にもWW2モノの需要は一部マニアに限られる。じゃあどうする!
 起こすしかねぇよな。ムーヴメントをよ。

 具体的にはあれだ。WW2を舞台にしつつ、美少女エースが大活躍するようなアニメを作ればよい。ほら、わりと最近そういうので流行ったアニメがあったじゃん。ストライクパンツァーズだっけ? ああいう感じでさ。
 おっと、いつもの戯言と思うなかれ。ちょうどそういうジャパニーズMOEテイストをふんだんに含んだWW2モノの本があるのよ。
 これなんだけど↓



出撃! 魔女飛行隊




 見ての通り、WW2のソ連空軍における女性部隊の話だ。
 ソ連では女性兵士が前線で戦うケースがしばしばあったが、これはその中でも異色な「女性のみで組織された戦闘飛行隊」の話である。その内訳は第586戦闘機連隊、第587爆撃機連隊、第588夜間爆撃機連隊の3つで、いずれもパイロットはもちろん、航法士、整備士に至るまで全て女性のみで構成されていた。
 この「出撃! 魔女飛行隊」は隊員たちの証言を挟みながら様々なエピソードを紹介した戦記物語で、元は1983年に朝日ソノラマより刊行されたものだが、今年9月に学研M文庫より再刊行された。
 ちょうど独ソ戦関連の本を探していたこともあり、タイトルに惹かれて手にとったのだが、想像以上に面白く、かつ萌える本だった。マジメな話、アニメ化とかしたらイケると思いますよこれ。
 とりあえず物語背景から順を追って紹介していこう。


 時は1941年、ソビエト連邦を屈服させんとするドイツ軍の猛攻は首都モスクワに迫りつつあり、国民の中に打倒ドイツの気運が高まりつつあった時代。高名な女流飛行家、マリナ・ラスコヴァの呼びかけによって女子飛行連隊の設立が認められた。
 スターリンのお墨付きを得たとはいえ、ソ連軍部内でも女性のみの部隊設立という試みを疑問視する声は大きかったが、愛する家族を、故郷を守るため、あるいは復讐のために戦うことを決意した女性たち(10代の少女も含む)は予想以上に多く、彼女たちはこぞって――ある者は遠路はるばる――マリナの元へ入隊試験を受けにやって来た。

 以下、マリナ・ラスコヴァが2人の少女、ラリッサ・ラサノヴァとナディア・ポポヴァ(両人とも後の隊員)を面接するシーンを引用しよう。



「あなたは前線に出ることが恐ろしくないのですか? 戦線の向こう側には敵兵がいて、あなたを狙って撃って来るのですよ」
「私の方から先に撃てば恐ろしくはありません。ラスコヴァ少佐殿」とラリッサは答えた。
 マリナ・ラスコヴァはもっと具体的に、重要な点を強調して説明した。
「私が選ぶ女性は、男の敵を相手にして、男の兵士と全く同等に戦うことになるのです。この事を何の疑問を持たずに納得してもらわねばなりません。隊員に選ばれれば、あなたは戦死するかも知れません。それも、あなたの母上でさえ、あなただと見分けがつかないほどに惨たらしい姿になるかもしれないのです。(中略)そんな危険をおかす任務を、あなたは本当に志願するのですか?」



 脅しともとれるような警告にも臆することなく、ふたりの少女は入隊への堅い意志を示し、正式に入隊を許可される。敬礼して退出し…その後の描写がなんとも少女らしくて可愛らしい。


 ふたりは無言で歩き、建物の前に出ると途端に「やったー」と大声をあげ、顔中で笑って、おたがいを抱きしめ合った。



 ああ、いいね。実にいいね。少女たちの華やかな笑顔と笑い声が聞こえてくるようではないか。
 マリナ・ラスコヴァはパイロットを志す少女達にとってカリスマ的な存在であり、彼女のもとで祖国のために戦うことは例えようもない喜びだったという。この2人の他にも多くの隊員たちが女子飛行隊へやって来る。

 モスクワの航空大学で学んでいる最中に故郷がドイツ軍の手に落ち、侵略者と戦うことを決意したガリナ・ジュンコフスカヤ。
 夫の戦死をきっかけに、幼い子両親に預けて入隊するカテリーナ・フェドトヴァ。
 そして、後に「スターリングラードの白薔薇」と呼ばれる撃墜王となった美貌の少女・リディア・リトヴァク。

 ここらへんの人物描写を掘り下げていけば普通にアニメ化とかいけそうですよ。タイトルを付けるとすれば…そうだな、第588夜間爆撃機連隊の徒名「夜の魔女」からとって、ストライクウィッチーズとかどうだろう。うん、我ながら良いセンスだね。
 というわけで今後、当サイトでストライクウィッチーズという言葉はこの「出撃! 魔女飛行隊」を指すものとします。

 なに、パンツ? あぁ、パンツの話もあったよ。ちょっとだけ。


 第五十八連隊の女子隊員たちの宿舎壕の様子をのぞいて見たいという気持ちを抑え切れない方のために、搭乗員たちが出撃している留守の間にご案内してみよう。
(中略)壁に打ち付けた釘に衣類がかけてある。官給品の粗い毛織地のチョッキと足首までの長いズボン下であり、その隣に隊員が家庭から持って来たペチコートやパンティなどのデリケートな下着の類が目立たないようにかけてある。




 以上。
 え? これで終わりだよ。何を期待してたんだよ。
 パンチラ? 零下40度の酷寒のロシアでどんな懲罰措置だよ。
 というかですね、このくだりの萌えポイントは隊員たちが過酷な戦場の中でも女性らしい身だしなみを心がけ、ささやかなお洒落を忘れなかったという点だ。例えば飛行服の襟や袖に小さく刺繍を入れたりなど、軍規の上からはアレだが、とても微笑ましく感じる。
 女兵士という語感からはややもするといかついメスゴリ…女傑タイプを連想しがちだが(例:HALO ODSTのアレ)、この女子飛行連隊のお嬢さんたちからはそういうマッチョな雰囲気は感じられない。
 本作には過酷な任務や戦闘の恐怖、死、別れといった「戦場にある兵士」ならではのエピソードも多数あるが、それと隣り合わせに描かかれる彼女たちの日常はホントに「年ごろの娘たち」って感じだ。





文庫版の口絵より。後ろ髪に手をやっている女性がナディア・ポポヴァ




 女ばかりの共同体ということで、こう考える人もいるだろう。「女子校みたいに陰湿なイジメとかなかったの?」と。
 本書中には特にそういった証言や記述はない。もっともこの本のための取材が行われた時期は冷戦まっただ中であり、インタビューにあたりソ連のイメージを損なうような部分は出せなかったのかもしれない。
 ただそれを差し引いても隊員内の関係はそれほど悪くはなかったようで、仲の良い2人が戦闘においてもよいコンビとなった例も紹介されている。

 さらにこう考える人もいるかもしれない。百合展開は?」と。
 ナディア・ポポヴァはマリナ・チチュノヴァという隊員ととても仲が良かったそうで、それについてコメントしている。


「私とマリナの間の友情は、仲の良い姉妹の間柄のように堅く結ばれていました(中略)若い女性が、こんなに大勢一緒に暮らしている中では、奇妙な関係が生まれるのではないか、とみなさん想像なさるかも知れませんが、その種のことは驚くほどに少なかったのです。(後略)」



 じゃあ皆無ではなかったんですね。と目をギラつかせた奴は懲罰部隊行きな。
 ていうか、女子飛行隊も他の部隊と共同で作戦行動を行ったりしていたので、機会は少ないとはいえ男女の交流はそれなりにあったらしいんだよね。よそのパイロットと恋仲になるも、片方の戦死で幕切れとなる悲恋とか多かったそうだ。


 恋愛がらみの話なら、第587爆撃機連隊の新たな司令官としてやってきた少佐(男性)と、ガリナ・ジュンコフスカヤの恋模様が実に萌える。

 その司令官――ヴァレンティン・ヴァシリヴィッチ・マルコフ少佐(32歳)は厳格な人柄で、隊員たちにも厳しく接した。それというのも第587連隊は先代司令(女性)を事故で失って動揺しており、連隊を引き締めるためにも「厳格な上官」として振る舞う必要があったのだ。


連隊の隊員たちは十代の娘が大半であり、目立った美人という部類の者の割合はかなり高かった。この部隊に男一人で送り込まれた指揮官にとって、心を動かされる機会はきわめて多いはずだ。しかし、その誘惑に負けてしまえば、部隊の士気と規律を崩壊させてしまう。



 美少女連隊に男一人とかハーレムじゃね? とか思った奴は女子高の先生にごめんなさいするように。

 そんなわけでマルコフ少佐は整備の不備を厳しく叱責したり、「君たちは兵士であってお針娘ではない」と、飛行服の刺繍――ささやかなお洒落――を外させたりもした。最初は反感を覚えた隊員たちも、やがて彼の持つ厳しさが自分たちには必要なのだと受け入れるようになる。しかし、やはり少佐も健全な青年だったということか、連隊内でも美人のうちに数えられるガリナに想いを寄せるようになる。
 その頃には連隊内も落ち着いていたようだが、少佐は自らに課した戒めを守り、その想いを口に出すことはなかった。しかし、この種のことに関する女性の嗅覚は軍用犬ばりに鋭い。かくしてその立場を超えた恋はたちまち連隊内に知れ渡ることになった。…が、一人だけ例外がいた。
 少佐の恋の相手である、ガリナ本人である。
 以下、本人の証言。


「その頃、ヴァレンティンが私のことをどう感じていたか、私は本当に気づかなかったのです。(中略)私は仲間が私をからかっているだけだ、と信じていました。若い娘たちのいたずらによくあるでしょう」



 何という甘酸っぱいラブコメ展開。ちょっとコメディ寄りかな?
 この不器用な恋の行方がどうなるのかは実際に読んでみて欲しいが、この本の中で1,2を争うほんわかエピソードであることは記しておく。


 他にも面白い話はいろいろある。マルコフ少佐とは別のケース、「男だらけの訓練施設に美少女がひとり」という危機感を煽られるようなシチュエーションもあったりする。全部紹介するわけにもいかないのでそろそろ締めるが、この「出撃! 魔女飛行隊」は、想像力豊かな人には優れた萌えテキストであることを改めて述べておきたい。
 冷戦期のソ連の監督下で取材が行われたことを考えれば、誇張されたり表に出ていない部分が存在することは想像できるが、それを考慮しても十分に楽しめることは間違いない。それと、WW2のソ連軍に対して新たな興味も掻き立てられる。
 これまで管理人は、ソ連の兵士というものは万事がさつで野蛮で大雑把、平たく言えば北斗の拳のモヒカン軍団みたいなもんだと思っていたが、そうではない面も存在するようだ。ここらへんの検証はまた他の本を読んで勉強することにしよう。


 最後に、女子飛行連隊の設立者であるマリナ・ラスコヴァ少佐が、訓練を終えた卒業生たちに贈った言葉を紹介してしめくくりとしたい。



「いずこの空でも、みなに武運と幸運がありますように」









追記:
 上では長々とロシアン美女&美少女の活躍について紹介してきたわけだが、2ch軍板の「信じられないが、本当だ」まとめサイトには、彼女たちの未来像を思わせるロシアンかあちゃんの逸話が紹介されていた。


390 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:04/01/25 23:02 ID:???
  一昨年くらいのニュースです。

  ロシアにおいて若い兵士54人が脱走。
  軍隊内で古参兵に暴力を振るわれた若い兵士54人が脱走。
  脱走した兵士達は夜通し歩いて町まで行って「母親の会」に連絡した。
                              ~~~~~~~~~~ 
  ※母親の会詳細。
  http://www1.jca.apc.org/aml/9910/14626.html
  >ロシアの女性運動団体のメンバーであるマリーアは、
  >4年前の1月の酷寒の日に彼女が行ったことを、
  >今回はより多くの母親が行うだろうと見ている。
  >マリーアはかつて、チェチェンの首都グローズヌィに、
  >砲撃、爆撃をかいくぐり入っている。
  >そこでマリーアは、武装勢力のシャミル・バサエフの捕虜と
  >なっていた息子のデニースを救出した。


391 名前:海の人 ◆STEELmK8LQ [sage] 投稿日:04/01/25 23:04 ID:???
  たしか母親の会は、クルスク号の事故の時にも家族のアフターケアなんかで大活躍
  していたはずでつ。
  やはり「マートカ」には勝てないラスィ(笑)

392 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:04/01/25 23:23 ID:???
  >>390
  凄杉

  特殊部隊かw

393 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:04/01/25 23:35 ID:???
  ロシアのおばはんは皆、ケツもデカイが態度もデカイ。肝っ玉ももちろんどデカイ。
  伝統的にとーちゃんよりかーちゃんの方が恐くてしっかりした一家の大黒柱だからかな。
  ろくに働きもしない飲んだくれのオヤジを蹴飛ばすように仕事に向かわせ、沢山の子供の面倒を見
  つつ、まき割りして水汲みして雪かきしてパン焼いて子供を学校に送って更に働きに出るみたい
  な……。
  しかも、酒の飲み過ぎで平均寿命が短い男に比べ、女性は大幅に長生きらしい。

394 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:04/01/25 23:39 ID:???
  原因はロシア革命〜WWIIで男女比がムチャクチャになったためだと聞いたことあり
  今はどうなんかね

――2ch軍事板「信じられないが、本当だ」まとめサイト ソ連・ロシア/大戦以後1より




 ロシアの少女は本当に美しいが、30前くらいからは見る影もなくなる、とは管理人も実際現地に旅した人から聞いたことがある(女子飛行連隊は30ちょいの美人もいたそうだが…)。でも、こういう逸話を見るとそれも味があっていいな、と思わないでもない。
 嫁にしたいかどうかはまた別の話だが。



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