11.04/13 その141 アメコミのススメ――『グリーンランタン:リバース』


「グリーンランタン」トレーラー


 一部業界で常識のように語られる「緑はいらない子」という認識に、苦々しい思いを抱いていた全国の緑好きな方々。
 ドリクラのみおが好き! エタメロではメイヤーが好き! 怒首領蜂大往生ではTYPE-B一択! そんな方々に福音をもたらすヒーローが大平洋の向こうからやってきましたよ! 日本の緑界の夜明けがすぐそこまで来てますよ。多分。
 なお日本公開は7/22の予定。もう目の前ですね。「えー、3カ月も先じゃん。GW終わってからテキスト書き始めても十分間に合うって」なんて余裕ブッこいてたら「え、もう今週公開なの!?」ってなるタイミングです。いやこれは管理人の更新サイクルの話だけど。自省です、自省。

 この映画の原作は同名のアメコミで、空軍のパイロットだったハル・ジョーダン氏が宇宙の平和を守る「グリーンランタン・コァ」の一員に選ばれ、コズミックな悪党から地球を守るため戦うというお話。
 スーパーマンやバットマンと同じくDCコミックスの世界観――通称DCユニバースの登場人物で、あちらでは長い歴史のある人気シリーズだ。



 日本での知名度はないに等しかったが、このつど初の翻訳となる「グリーンランタン:リバース」が刊行されたので、管理人も先日買ってみた。




 ただこれ、出たのは今年の1月なんだよね。何で今までスルーしていたかというと、「グリーンランタン」というキャラにあまり惹かれるものがなかったから。
 なんていうか……緑という色がそもそも地味なんだよね。押しの弱い色というか、万年脇役カラーというか。日本人的な感覚だと、赤や青と比べてキャラが立っておらず「とりあえず緑も入れとくか」という穴埋め要員のニオイを感じとってしまう。

 そんなわけで今まで敬遠していたのだが、せっかくアメコミに手をだしていることだし、映画公開の暁には緑復権間違いなしと思い、挑戦してみたわけだ。

 感想としては、いい意味で少年漫画っぽい。
 これまでに刊行された翻訳アメコミは、比較的「大人の観賞に耐えるような」渋めの作品が多い。特にバットマン系はその傾向が強く、「アーカム・アサイラム」などは漫画より美術や絵画に興味のある人に受けそうなほどだ。
 そんな中で「グリーンランタン:リバース」は、友情・信頼・復活・勝利と、かなり正統派な活劇モノに仕上がっていると感じる。

 しかし困ったことがひとつ。この話、予備知識のない読者にとっては分かりづらい点が多々あるのだ。
 例えば主人公のハル・ジョーダンだが、「リバース」の彼はこの世の存在かどうかも分からない謎めいた雰囲気を漂わせている。読み進めるうちにある程度分かってくるが、どうも非常に苛酷な運命をたどった末、半分幽霊みたいな存在になっているらしい。
 その紆余曲折を簡単に説明すると以下のようになる。


・優秀なグリーンランタンとして活躍していたが、愛する人々を失ったショックで暴走。仲間を次々と殺し、ついにはグリーンランタン・コァを滅ぼして「魔人パララックス」に変貌する。

・宇宙をゼロから作り直そうと画策するなど、ヒーロー達を敵に回して大戦争を繰り広げる。

・恒星を喰らう怪獣が太陽系に来襲。火の消えた太陽を自らを犠牲にして再点火。地球を救って死亡する。

・地獄に堕ちたハルだが、その魂は復讐の精霊スペクター(キングダム・カムにも出てた彼)と一体化し、新たなスペクターとなって地上に戻る。以後、悪しき者へ復讐を果たすスペクター生活に。


 …という具合。「リバース」に登場するハルは、強大な力はあれど肉体を持たない幽霊のような存在で、さらにその内では魔人パララックスとスペクターが主導権を握ろうと争っているという、まことにややこしい状態にある。
 なお上記の出来事はそれぞれ「エメラルド・トワイライト」「ゼロ・アワー」「ファイナルナイト」「デイ・オブ・ジャッジメント」と、それぞれ独立したエピソードになっている。そりゃ長いわけだ。
 「グリーンランタン:リバース」は、堕ちた英雄であるハル・ジョーダンが贖罪を経て復活するまでを描いた、長い物語の最終章とも言える。一見客が混乱するのも無理はない。

 しかしあれですな。上のハル・ジョーダンの遍歴、主人公らしい波乱万丈な人生といえなくもないが、かつての仲間を片っ端から殺した末にラスボス化という振り切れ具合はちょっと珍しいのではないか。2chのグリーンランタンスレにウルトラマンで例えたレスがあったので転載しておこう。


【アラン】グリーンランタン【スコット】

152 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/06(木) 15:34:05 ID:e2ktnevm
  科特隊を全滅させられたウルトラマンが独断で彼らに命を与えたら光の国から制裁を受け
  ブチ切れたウルトラマンが光の国に乗りこんで兄弟達を殺してカラータイマーを奪い
  虜囚から解放されて向かってきたべリアルもぶっ殺しウルトラベルと一体化し魔神になった

  こんなのやったらまあ猛抗議だろうな



 全国のキッズに何か偏った価値観を与えてしまいそうで怖いね。
 そんなわけでリバースは初心者向けじゃない、と取られそうなことを延々書いてきたが、案外そうでもないと思う。
 劇中でもある程度は説明されるし、別紙付録でも細かく解説されているのでお手上げ状態になることはない。それに何より、話そのものに少年漫画的な熱さがある。それがあったからこそ、管理人も読後にあれこれ情報を仕入れ、今またこういう文を書いているわけだ。


 リバースの少年漫画テイストについて語る前に、グリーンランタンの基礎知識と、緑という色の素晴らしさについて触れておかねばならない。
 どこかのバカが緑は脇役カラーだの穴埋め要員だのとぬかしていたが、「グリーンランタン」において緑とは“意志”を現す色であり、そして意志こそが彼らの力の要、最大の武器でもあるのだ。


             「リングこそは名誉の証。
              リングはその者の意思を力とする。
              意志こそは宇宙最強の力」

             「我らが武器は意志力のみ」


――「グリーンランタン:リバース」より


 その意志力をパワーに変えるのが、グリーンランタンの証である指輪「パワーリング」である。この指輪があれば大宇宙を自在に飛び回ったり異性人の言葉を翻訳したりと便利な機能が使えるほか、ソリッドライト(ハードライト)と呼ばれる光で様々なものを創って攻撃・防御に活用できる。



応用の一例↓



「モータルコンバットvsDCユニバース(日本未発売)」より。




 どうです、緑の良さがなんとなく分かってきたでしょう。
 折に触れてドリクラのみおを不人気呼ばわりするボンクラどももこんな感じでお仕置きしてやりたいですね。あ、大丈夫、グリーンランタンはたとえ悪者でも命は奪わないそうですから。
 前述の暴走ハルはかつての同僚を首ヘシ折って殺したりしたそうだけど。


 さぁ、そんなわけで「リバース(再生)」の物語は幕を開ける。

 物語はハルの後輩にあたるグリーンランタン、カイルが太陽の中からパララックス(ハル)の遺体を回収したところから始まる。彼は“パララックス”について重大な秘密を掴んでいたが、重傷を負いそれを仲間に伝えることができない。
 時を同じくして、他のグリーンランタン達の前にスペクターとなったハルが出現。それを契機に次々と異常な現象が起きはじめる。
 ヒーローチームJLA(ジャスティスリーグ・オブ・アメリカ)の陰謀担当であるバットマン(言い過ぎです)はもともとハルを信用していなかったこともあり、ハルこそが元凶ではないかと疑う。しかし他のグリーンランタンたちは、ハルはもはや暴虐の魔人・パララックスではないと反発する。


「ハルはエゴの強い男だった。何でも都合のいいように考え、もしもの場合を危ぶむ事もなかった…。成り行き任せで飛び込むだけだ」

「あんたはハルにきつく当たっていたが、やっと理由がわかったよ。ハルだけは自分の思い通りにできなかったからだ! この世でただ一人、ハルだけはな!」


 ランタンたちの想いをよそに、事態はだんだん悪い方向へと進んでいく。傷つき倒れていくヒーローたち。スペクターとパララックスの間で苦しむハル。そしてついに明らかになる黒幕の正体。周到に用意されていた計画が、再び宇宙を恐怖に陥れようとしていた。
 だが、それでも“意志”の力をもって立ち向かう者がいる。


「もはやあやつを信じる者はおらぬ。手を差し伸べる者もな」

「いいや。いるぜ、ここに…」


 さっきも述べたように、黒幕とかそのあたりは「これまでの話を知ってること前提」で進むので、初読の時は結構「?」となる部分が少なくない。予備知識ほぼゼロの管理人は、全体の流れを掴むまで2、3回読む必要があった。

 ただ、そういう細かいところを把握しなくても盛り上がるところは盛り上がる。ハル・ジョーダン復活のシーンなどはカタルシス爆発ですよ。


             もう復讐の叫びは聞こえない…
             恐怖も消えた…
             あるのは意志のみ…

             立とうという意志…
             戦おうという意志…
             生きようという意志…



 この作品に限ったことではないが、アメコミはほんとおっさんがカッコいい。おっさんしかいないとも言えるが。
 とりあえず今から読もうという人は、緑色の人たち(グリーンランタン、グリーンアロー)はハル派、と頭に入れておけばいいと思う。緑に感情移入する漫画ですからね。某コウモリへの思い入れはひとまず脇に置いておきましょう。

 ちなみにグリーンアローはランタンの一員ではなく、単に弓の名手ってだけの爺さんである(マッチョだけど)。バットマンもそうだが、彼らのように「普通の人間」のヒーローが、グリーンランタンのように宇宙を股にかける超人ヒーローに混じって存在感を発揮するのも、アメコミヒーローの面白いところではなかろうか。



グリーンアロー



 少年漫画的要素はまだある。
 ランタンの証であり唯一の武器でもあるパワーリングは持ち主の意志力次第で大きなパワーを発揮するが、24時間でエネルギーが切れる。それをチャージするのに必要なのがパワーバッテリーだ。



リングとバッテリー




 バッテリーにリングをかざし、宣誓(オース)を唱えることでエネルギーがチャージされるわけだが、その際の宣誓文句が少年漫画テイスト。


In brightest day, in blackest night,
輝ける陽の下も、漆黒の夜の闇も、

No evil shall escape my sight
我が瞳、悪を逃さじ

Let those who worship evil's might,
闇の力を崇める者よ、

Beware my power... Green Lantern's light!
畏れよ我が光、グリーンランタンの光を!



 映画のトレーラーの最後でもこの宣誓文句が使われているし、グリーンランタンを語る上で重要な要素であることが伺える。スーパーマリオのルイージが大好き! てか兄貴の名前なんだっけ? というくらい緑好きな人は、一日一回は唱えて暗誦できるようになっておくといい。

 というわけで、閲覧者の皆様にも緑の素晴らしさが分かっていただけたものと思う。明日から2ch等で緑はいらない云々という書き込みをみつけたら、流れを無視してチャージの宣誓文句を書き込むなど啓蒙活動に勤めて欲しい。
 …なに?「それでも緑はいらねぇ」だと? 脇役みたいな色でヒーローにはふさわしくないと? やっつけ的な穴埋め要員みたいだと? そうかそうか。その台詞をこっちの緑の前でも口にできるかな?



追記1:
 ところで例の宣誓だが、映画の字幕ではどう翻訳されるのか気になるところだ。2chグリーンランタンスレでもそれに関する考察…というか危惧が出ていた。

【アラン】グリーンランタン【スコット】

132 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/02(日) 19:44:43 ID:aNOz4Vba
  あの宣誓はどういう風に訳されるんだろう
  英語で韻を踏んであるから、直訳すると魅力が半減しちゃうだろうし

133 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/02(日) 19:55:18 ID:oqUe8Sz9
  それこそ翻訳者の腕の見せどころ

  こうなったら偉大なるなっちに翻訳して頂こう

136 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/04(火) 02:40:50 ID:wys5fDSu
   昼は聡明だが、夜になるとどす黒い
   俺の目から逃れる悪い奴らはいないかもだ!
   邪悪なパワーが好きな奴らは気をつけろ
   俺の力でグリーンランタンが光る!


  最初をbright as day, black as nightと誤聴したうえ、
  shallの意味を取り違えると想定してなっち風に訳してみたよ



 クオリティ高くてちょっと泣けるね。


追記2:

【アラン】グリーンランタン【スコット】

73 :名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 03:39:33 ID:0mn/VBmx
  まさかランタン映画が日本でも大ヒットして
  猫も杓子もハルハル連呼する日がやってこようとは

74 :名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 14:30:17 ID:Y2czYrV2
  やってこねえよ
  そんな日は

75 :名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 18:20:42 ID:yhUEZrqC
  猫や杓子のグリーン・ランタンとな?

76 :名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 19:55:14 ID:MabAfGDl
  杓子も普通にいそうだよな

77 :名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 20:01:15 ID:tRifvqTL
  いないと言い切れないのがランタンの恐ろしいところだw
  とりあえず猫の赤提灯はいたが



>猫の赤提灯

 この子ですね。




 憤怒と憎悪を司る「レッドランタン」の一員で、デク・スター(Dex-Starr)という名前だそうだ。尻尾につけたパワーリングがキュートですね(リバースには登場しないのであしからず)。
 虹裏アメコミWIKIによれば、荒くれぞろいのレッドランタンの中で最も残虐だとか。間違いなく宇宙最凶の猫である。でも、飼い主の亡骸(?)に寄り添って涙を流す絵とかあったし、救い難い悪党ではなさそうに見えるが…。
 動物のスーパーヒーローといえば、スーパーマンの飼い犬である「クリプト」を思い浮かべるが、それといい勝負になるかもしれん。



おまけ:
 一部業界に蔓延する「緑バッシング」は、Googleの検索候補にも現れている。


 「緑は敵」「緑は危険」ってのが気になるな。何か主人公の脅威になるような緑キャラでもいたんだろうか。
 ついでに言えば、怒首領蜂大往生の自機、TYPE-Bも扱いがひどい。



 “もしかして:”じゃあねーんだよコラァ! これは何か、「普通Bとか使う人いないよね」とか言いたいわけか! 拡散型ショットに駄目出ししてんのかこの野郎!
 まぁ管理人もTYPE-Aしか使ってないけどね。縦シューなら前方一点集中ショットが基本でしょ。拡散なんて甘えですよ、甘え。



※過去のアメコミ更新
雑文その140・アニメ版X-MENがいい感じらしい
雑文その135・アメコミのススメ――『キングダム・カム』

※過去の大往生更新
雑文その136・ショーティアと学ぶシューティング格言
雑文その70・怒首領蜂 大往生――初心者でも大往…大丈夫ですか?



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