11.08/08 その153 ファム・ファタール的雪女


*雪女の召喚獣*



 冗談はさておき雪女の話をしよう。
 この国に棲む数多の魑魅魍魎のうち、美人度と知名度を兼ね備えた妖怪といえば雪女に並ぶものはないと思う。日本人ならおそらく誰しも小泉八雲『怪談』の雪女に親しんでいるだろうし、俳句の季語に用いられるくらい雪、冬の化身として一般化した存在だ。よもや雪の妖怪としてビッグフットを思い出す輩はいまい。もし近くにそういう人がいたら、日本にロッキー山脈はないんだよと諭してあげるとよいだろう。

 さて、そんな具合に我々にとってはなじみ深い雪女だが、そもそも雪女とは何者なのか。それに関する考察を「雪女キャラに萌えるスレ」から引用してみよう。


雪女キャラに萌えるスレ

435 :名無したん(;´Д`)ハァハァ:2011/07/26(火) 19:12:32.50 ID:vB0a7OLM
  雪女は雪女だよ派
     ┣日本妖怪派
     ┃   ┣雪女は和服に限る派(原理主義)
     ┃   ┣ミニスカ着物もいいよ派(萌えヒロイン派)
     ┃   ┣着物は飾りだよ派(エロ妄想派)
     ┃   ┗とにかくお嫁さんにしたい派(らぶらぶ派)
     ┣人外派
     ┃   ┣冬の女神だよ派(神話マニア派)
     ┃   ┣雪の精だよ派(ロマン派)
     ┃   ┣雪山の地縛霊だよ派(ホラー派)
     ┃   ┣寒冷地仕様の♀モンスターだよ派(ファンタジー派)
     ┃   ┗雪男の♀だよ派(UMA派/ゲテモノ趣味派)
     ┗擬人派
          ┣厳しい冬の擬人化だよ派(現実派)
          ┣冷感グッズのイメージキャラ派(コマーシャリズム)
          ┗冷たいものなら何でも萌えるよ派(妄想力無限派)

436 :名無したん(;´Д`)ハァハァ:2011/07/26(火) 19:14:38.06 ID:vB0a7OLM
   雪女は氷属性だよ派
     ┣氷属性の能力を持ってるよ派
     ┃   ┣自前の特殊能力だよ派(日和見派)
     ┃   ┣アイテムの力だよ派(進みすぎた科学派)
     ┃   ┣氷の魔物を召還するよ派(他力本願派)
     ┃   ┗魔法だよ派(知的でクール派)
     ┗分類が氷属性だよ派
          ┣性格がクールだよ派(クーデレ派)
          ┣ホームが寒冷地だよ派(北国生まれ派)
          ┗炎に弱い派(かませキャラ派)

   雪女なんていないよ派
     ┣暑がりの女の子だよ派
     ┃   ┣冬服や冬景色が似合う派(冬が好き派)
     ┃   ┗色白は美人だよ派(雪のように白い肌派)
     ┣神が作るはずないよ派(一神教過激派)
     ┗研究の対象としては興味深いよ派(民俗学派)




 「冷たいものなら何でも萌えるよ派」はあれかね。冷ややっことかにも萌えちゃうのかね。まてよ、よく考えたらアレ、冷たいし白いし、微妙に雪女っぽいよな……。そう考えれば萌えるのも不可能ではないね。でも食べ物ならかき氷の方が雪女っぽくない? そうだ、練乳をかけたかき氷を「雪女スペシャル」として売り出s……と書いてて思ったが、「冷感グッズのイメージキャラ」への採用って意外にないぞ。そもそもCMに登場する雪女って、伝統的なものに限れば昭和44年のホンダのCMくらいのような気がする。



雪山を走る一台の車。その前に突然雪女が…。




雪女の吐息で車はたちまち氷漬けに! …しかしものともせずに走り出す車。




なおも追いすがり、車を雪まみれにする雪女。しかし慌てずワイパーを作動させるドライバー。




なんなく雪女を振り切ったドライバーの前に、ヒッチハイクの美女が。




なんと美女はさっきの雪女だったー! 食らえッ! 至近距離からの氷雪吐息ッ!




しかし慌てずヒーターのスイッチを入れるドライバー。たちまち溶け崩れる雪女。




雪女相手でもへっちゃらなHONDA N360!






 雪女ナメてんのかコラァアア!! 自然への畏敬の念はドコ飛んでったんだ!
 ……とキーボードをひっくり返しそうになったが、昭和44年といえば高度経済成長期であると同時に第二次民話ブームと呼ばれた時代。であればこそ、かませ役としてではあっても雪女がCMにも登場できたといえなくもない。

 かなり話が逸れたが、雪女にはとても多彩な貌がある。
 最も有名な『怪談』バージョン以外にも、無理やり風呂に入れたら溶けてしまったという“つらら女房”や、雪の日に現れて赤子を抱いてくれと頼んでくるもの、また正月元旦に雪と共に降りてくる“年神(豊饒を司る神)”としての顔も持つ。志村有弘・諏訪春雄・編『日本説話伝説大事典』には「大きく鬼女、慈母、豊饒の神と分けられる」とあり、上記のような伝承が紹介されている。
 ユーモラスだったり恐ろしげであったり、お仕事大変ですねと労いたい気分になるが、これらの伝承の中にはこっちを容赦なく殺しにかかる雪女も含まれているので、あまり軽々に萌えるのも考えものだ。
 だが、萌えて屍拾う者なし。冷たく儚い雪花麗人も凍てつく瞳の鬼女も、等しく皿まで喰らってこそ真の雪女萌えと言えるかもしれない。


 ここからは余談だが、最もよく知られた『怪談』型の雪女。これは日本古来の伝承を脚色したのではなく、小泉八雲のオリジナル・ストーリーだという説を最近知った。少々長いが、小松和彦・編著『図解雑学・日本の妖怪』の該当箇所を抜粋してみよう。


 人間の男と情を交わすようなタイプの雪女は明治時代に東京帝国大学で教鞭をとっていたラフカディオ・ハーン(日本名:小泉八雲)が著書『怪談』の中に発表したものが最初に現れたものといってよく、ハーン自身は東京の調布村出身の使用人から聞いた話だとしている。しかしハーンは来日前にも自然界の精霊の女が人間の男と夫婦になったのち男の許を去ってしまう話を執筆しており、そのため吹雪や大雪の中に女性を見い出す日本人の感覚にハーンが感銘を受けて、当時の西洋の文学界において流行していた「宿命の女(ファム・ファタール)」(男にとって運命の女性、あるいは破滅させる魔性の女)としての雪女のモデルを創作したのではないかと考えられている。


 うっそマジで? と思い図書館で『日本昔話通観』から雪女話を片っ端から拾ってみると、怪談式雪女の話がいくつもある。茂作と巳之吉が親子だったり、木こりではなく猟師だったりと細部に違いはあれど、大筋はほぼ同じだ。
 つまりこういう“口碑伝説”のどれかが元ネタなんだろうと管理人は思っていたし、小泉八雲研究家の多くもそう考えてきた。ただ「元ネタと思われる伝説」が採取され本となったのは、『怪談』刊行(1904年)からずっと後のことであり、つまり文献上は『怪談』より遡ることができないそうだ。
 研究家の一人である牧野陽子は『怪談』が旧制中学校で英語のテキストに用いられてきたことに着目し、それが何十年もの年月をかけて人々の間に浸透していった結果、土地の古老が幼い頃に父母から聞いた話として“口碑化”したのではないかと推測している。

 先ごろ刊行された遠田勝『<転生>する物語 - 小泉八雲「怪談」の世界』はこの説を紹介しているほか、独自の調査をもとに「雪女の口碑伝説」の真偽を検証し、後世の人間が伝説を“創作”し、それがいかに広まっていったかを解説している。
 センセーショナルな話だとは思うが、この「雪女のルーツ」については今も小泉八雲研究者の中で論が分かれ、決着がついていないらしい。
 『<転生>する物語』は上記の研究についても興味深いが、『怪談』雪女の物語構造についての考察が実に面白く、雪女萌えの人全てにお勧めしたいと思うが、この話は長くなるので次回以降に回すことにする。

 最後になるが、管理人は「ファム・ファタール」と聞くとジム・トンプスンのアレを思い浮かべる。またか! お前トンプスンったらソレしかねぇのか! と罵られるのは承知の上で、今回もやっちゃうよ。「死ぬほどいい雪女」



「その、今日はもう遅いし」わたしは言った。「わたしの家でゆっくり休んで、江戸には明日になってから出かけてはどうだろう」彼女はうなずき、共に家へと向かった。それはまるで美しい夢のようだった。だが親愛なる読者よ、
雪といえば
信じていただきたい。わたしとお雪、わが最愛の妻との出会いは、まさに今述べたとおりだったのだ。こうして、愛に飢えたふたつの魂は、ついに結ばれたのだった。 しかし、わたしはときどき彼女と昔あったことがあるような
茂吉どんを殺した雪女め
思いにとらわれることがあった。はじめのうちは、落ち着かない気がした。ほんとうの彼女を知るのが恐ろしくて。もしかしてほんとうの彼女を見たら好きにならなかったかもしれないと思った。だが、それもはじめのうちだけだった。それはそれでしかたのないことだったのだ。親愛なる読者よ、つまり、お雪は
恐ろしい目をした雪女だ。なのに、おれの体は動かなくて
器量良しで働き者で、夫が妻に望むものを残らず備えていた。老いた母とずっとふたりで暮らしていたわたしだが、やっと望む暮らしを手に入れたのだ。


 子供も生まれて、わたしはとても幸せだった。お雪はいまも美しいままだった。とこ
幸せだって?何が? 今の俺は幸せなんかじゃない。吹雪は、どんどんひどく
ろがふたりきりになると、疑いが頭をもたげた。なぜなら、考えてみれば、妻とても不
なっていくようだった。突然の来訪者。恐ろしい目をした白い女。おれは耐え
思議な女だったからだ。親愛なる読者のあなたには察しがついていると思うが、わ
られなかった。来世はこれより少しはましであってほしい。どんどん雪が吹き
たしはとても常識的な野郎なのだ。つまり、何人子を産んでも若く変わらない妻に
込んできた。凍えそうなほど寒かったが、女を見つめた。しばらくすると、何が
対する疑い。初めて出会った時と変わらず、美しいままの妻に対する疑いだ。木こ
なんだかわからなくなった。耳も聞こえない。何も感じられない。麻痺してしま
りの女房として朝から晩まで働きながら、どうして老けずにいられる? お雪が、わが
っている。でも、すべてのものが美しく見えてきた。女も、小屋も、そしておれ
愛する妻が灯を顔に受けて針仕事をしていた。わたしが若い時の思い出話をする
までも。最後はこうでなくちゃ。今までこうはいかなかったのだから。小屋の開
のを聞き、仕事の手を休めず先をうながした。話しを終えたら体がだるくなった。家
いた戸から雪がどんどん吹き込んで、次第にあたりに降り積もった。雪女は白
の中はとてもあたたかくて、行灯の光が静かにゆれていた。しかし、同時にとても寒
い息を吐きはじめた。茂吉どんは息を吹きかけられて動かなくなったが、おれ
かった。辻褄が合わないかもしれないが、わたしにはどうしようもない。わたしはごろ
は気にならなかった。ほかのものと同じように、その吐息さえも美しかった。雪
りと横になった。お雪が立ち上がり、わたしの横に来て顔を見下ろした。とうとう話し
女はこの世で一番の美女だった。おれは彼女に伝えたいと思った。おれがい
てしまったのですねとお雪は言った。だから、あなたの命を奪います。やはりあの夜
かに彼女を美しいと思ったかを示したかった。おれは口を開き、しゃべろうと
の雪女だったのかとわたしは尋ねた。ええ、そうですとお雪は答えた。何も感じない
した。それで少し目がさめた。冷たい風と氷の欠片とで。でも何も感じなかっ
から大丈夫。眠っている間にすべてが終わっているわ。もう何も心配しなくていいの
たみたいだ。おれの命が尽きるまでの時間も。もうすべてがおわった。しがみ
よ、それってすてきじゃない、巳之吉さん。わたしがうなずくと、お雪は唇を近づけ
ついていても意味がない。おれは舌を動かした。かろうじてまだ動かせる体の
てきた。息を吹きかけはじめた。誰にも言ってはいけないといったでしょう、とお雪
部分を。雪女はそんなものはいらないと言った。おれが与えられる唯一のもの
は言った、ああ、そうだったねというと、お雪の姿は消えた。一面の吹雪になった。
を。彼女の姿は消えた。一面の吹雪になった。おれは静かに眼を閉じた。





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雑文その149・海外の雪女事情

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