11.08/21 その154 Toy Soldiers:Cold War――狂気の時代のおもちゃ箱





 いやぁ、暑い日が続いておりますな! 皆、夏を楽しんでるかい!?
 海へ、山へ、川へ、ビアガーデンへと繰り出して冷たいビールを喉に流し込むのも良いが、ゲーマー的には涼しくなるようなゲームも嗜んでおきたいものだ。
 ホラーゲームで身震いするのもいいし、水着の女子がワンサカ出てくるようなゲームで鼻の下を伸ばしてもいい。例えば、えーと…ビキニカラテとか?

 でも夏といえばもっとふさわしいものがあるよね。こう、言葉を聞いただけでひんやりしてきて、なおかつドンパチゲーとも相性のいいテーマがさ。
 おっさん世代の人なら覚えているだろう。人類の愚かさが世界を滅ぼそうとしたあの時代のことを。そう――





冷戦ですよ。



 それは超大国のイデオロギーが世界を塗り分け、「東」と「西」で国際社会が対立した時代。そして世界中の人間を吹っ飛ばせるだけの核兵器を糞の山のように積み上げ、その危ういバランスを「平和」と呼んだ時代でもある。
 敵国からの核攻撃に核でもって報復する、相互確証破壊戦略(Mutual Assured Destruction)の略称が“MAD”となるのはあまりにも出来過ぎた――そして全く笑えない冗談ではあるが、世界の破滅がすぐ目の前にぶら下がっていたあの時代は、間違いなく人類史における一種の極限状況だったと言えるだろう。

 そんな狂った時代をテーマにした、XBLAのアクションシューティング&シミュレーション「Toy Soldiers:Cold War」で絶賛ドンパチ中の管理人ですヒャッハァア!
 ええ、やっぱり夏といえばドンパチですよ。紐水着のセクシー美女より弾帯を巻きつけた逞しいマッチョ兵士に血を熱くするのが正しいアクションゲーマーの有り様といえよう。よく考えたら俺のスケジュールって一年中ドンパチだったわっていうか最近マジでおっぱいより大胸筋の方が好きな気がして怖い。
 とりあえずゲームについて説明すると「Toy Soldiers」はステージ内に砲台などを設置して敵の進撃を食い止めるタワーディフェンス型のSLGである。一作目は第一次世界大戦が舞台だったが、今作はその名の通り冷戦が舞台。登場する兵器も重機関銃から対戦車砲、榴弾砲はもとより戦車にヘリに戦闘機、はては核まで飛び出すド派手な大戦争が繰り広げられる。おもちゃ箱の中で。





少しずつずたずたになっていく 決して勝てやしない

でも戦いは終わらない おもちゃの兵隊たち

Eminem / Like Toy Soldiers (翻訳元:洋HIPHOPの和訳サイト作らないか?


 いやエミネムは関係ないが、ジオラマの中でおもちゃの兵隊たちが繰り広げる戦争、というシュールさがこのシリーズの持ち味でもある。今作は80年代のおもちゃや映画のテイストを取り入れているそうで、冒頭のランボーっぽいキャラクター(特殊支援『コマンドー』)もそこから引っ張ってきているのだろう。
 フフ……80年代(の後半)といえば冷戦の黄昏であると同時にスタローンやシュワちゃんの全盛期であり、筋肉と大爆発が映画館のスクリーンを彩った時代でもある。核戦争の危機という薄ら寒さがつきまとってはいたが、一方で熱い時代でもあった。あまり関係ないが、エミネム「Like Toy Soldiers」のサンプリング元であるマルティカ「Toy Soldiers」も80年代の曲だそうだ。

 話を戻して「Toy Soldiers:Cold War」だが、これが実に爽快で面白い。
 ゲームは主に砲台を設置して敵の侵攻を撃退するわけだが、それらの操作を任意でプレイヤーが行えるというのが良い。管理人のような根っからのアクションゲーマー(意訳:頭蓋骨に空薬莢が詰まったトリガーバカ)でもちゃんと戦争できるわけですよ。
 メインで操作するのは固定砲台だが、マップによってはヘリや戦車などを乗り回して敵を蹴散らしていけるし、連続して敵を倒すとゲージが溜まって「特殊支援」が使用できるようになる。これはB52の絨毯爆撃やAC130による対地攻撃など幾つか種類があるが、そのうちのひとつ「コマンドー」は上半身裸のマッチョ兵士を操作して大暴れできる。これに限っていえば完全にTPSです。正直な話、管理人はコマンドーの紹介動画を見て購入を決めました。
 使える機会は少ないものの、雲霞の如く群がる敵兵をM60で薙ぎ倒すプレイは最近のシューターが置き去りにした原始的な快感を思い出させてくれる。やっぱりワンマンアーミーは最高だな! バズーカもあるから戦闘ヘリだって落とせるよ! 弓矢は?とか言うな。ランボーじゃなくてコマンドーだって言ってるだろ。

 おもちゃ箱の中の戦争というユニークな設定でありつつも、ロード中のステージ解説などはわりと真面目に「米ソ戦争」になっているのも個人的に気に入った。超大国同士の全面戦争という黙示録シナリオは現実には起こらなかったが(起こっていたら今頃はゲームなどやっておれん)、ゲームの中――否、おもちゃ箱の中だからこそ、起こりえた悪夢を無邪気なドンパチゲーへと昇華できたともいえる。
 見よ、この無駄に熱いカバーアートを。



 筋肉と機関銃と大爆発(つうか核)シンプルながらアクションゲーマーの心を揺さぶる要素ではないか、えぇおい? ゲーム的には冷戦というより大熱戦と言った方が適当だが、当時の映画――ランボーやらトップガンやらに夢中になった世代の人なら何らかのシンパシーを感じるのではないか。
 あとあれ、戦場の狼や怒といった戦争アクションに血を滾らせたゲーマーたち。当時のゲームセンターは不良の溜まり場で、社会からは決して良くは見られなかった。それでもゲームというものが(数多のクソゲーも含め)熱かったあの時代は、冷戦が終わろうとしていた時期ともぴったり重なるのだ。

 おもちゃ箱の中には、狂った時代の記憶と共に色あせない思い出もまた納められている。「Toy Soldiers:Cold War」はユーモラスな外見とは裏腹に、ちょっぴり郷愁にひたらせてくれるゲームでもあるのだ。



追記1:
 ベルリンの壁の崩壊と共に冷戦は終わり、世界が燃える悪夢にうなされることもなくなった。もう二度とあんな時代は来てほしくないと思うが、フィクションに限ればあの暗い世界を愛する自分がいるのもまた確かだ。
 共産主義。ベトナム戦争。鉄のカーテン。破壊工作員。スパイ。殺し屋。売国奴。冷戦構造の闇の中で生まれ、国家とそのイデオロギーのために戦うことを運命づけられた戦士たち。そしてその国家に捨てられ、忘れられた男たち。いつの時代のいつの戦争でも見られる構図だが、世界が二分されていた冷戦期は他と違う閉塞感がそこに漂っている。

 管理人は夏に備えて冷戦期の名作といわれる冒険小説・スパイ小説を読み返していたので、それにもちょっと触れておこう。


■J・C・ポロック『樹海戦線』(1982)


 ベトナム戦争で特殊任務に従事していたマイク・スレイターは、かつての上官から呼び出しを受けて過去の任務に関わる「ある写真」を見るよう頼まれる。だがその写真を見る前に上官は何者かに襲われて殺害されてしまう。
 襲撃者の手はスレイターやベトナム時代の戦友たちにも迫り、彼らは生き残るための戦いを余儀なくされる。

 …と書くとミステリーっぽいが、殺された上官が掴みつつあり、スレイターたちが狙われる原因となった「写真」の秘密については早い段階で明かされる。それはCIAの深部に潜り込んだ二重スパイを暴く鍵であり、物語はスレイターと事態の調査を進めるCIA、そして二重スパイと彼を庇護するソ連の視点から進んでいく。
 いやね、大好きなんですよこの小説。「国に利用され、捨てられた男たち」の怒りと哀しみが全編に満ちたこの空気。そして緊迫感あふれる戦闘描写。特に終盤、カナダの森林でソ連の精鋭部隊「ヴィソートニキ・チーム」と繰り広げる、静かで熱い戦いは秀逸。

 余談ながら、作中で核への恐怖と諦念が語られている個所がある。スレイターがかつての戦友パーキンスを訪ね、世間の情勢とは無縁に暮らしている彼に「世間知らずになるんじゃないか?」と問いかける。パーキンスは答えて曰く「かまわんさ。水平線の上にきのこ雲が見えたら、それですべて終わりだって分かるからな」
 この台詞はパーキンスが半ば世捨て人なことも考慮する必要があるが、こういう終末観は程度の差はあれ多くの人が共有していたはずである。子供のころ、絵本「風が吹くとき」を読んで恐怖に震えた人も多いのではないだろうか。


■ジョン・ル・カレ『寒い国から帰ってきたスパイ』(1963)


 東ドイツから英国へ情報を流していた内通者が、脱出に失敗して殺害された。これで英国諜報部<サーカス>は東独における諜報活動の足場を全て失ったことになる。だがサーカスはこの状況を逆用して東独情報部の大物・ムントの失脚を狙い、諜報部員アレック・リーマスを裏切り者に偽装させて東独に接触させる――。

 第二次大戦の傷もまだ生々しいベルリンを舞台にしたスパイ小説。用語集にも書いたが、スパイ小説といえばジェームズ・ボンドのようなヒーローものという既成概念を打ち崩したリアルタッチのスパイ小説。
 管理人のお気に入りの中では珍しくアクション要素皆無の作品だが、それゆえに過酷な騙し合いの世界に生きるスパイたちの哀しみが際立っている。

 余談ながら、訳者後書きの中でル・カレの次のような言葉が紹介されている。

「僕がこの小説で、西欧自由主義国に示したかったもっとも重要で唯一のものは、個人は思想よりも大切だという考え方です。これを反共的な観念だとの一言で片付けてしまうのは、恐ろしい誤りです。(中略)われわれは西欧デモクラシー体制の維持という大義名分で、その主義そのものの放棄を強いられているのが現状です(後略)」

 われわれ戦後日本人は西側自由主義陣営の中で暮らし、東側社会主義陣営は個人が圧殺される忌むべき政体だという思想のもとで育った。だが国家というものは一皮むけば、どれも全体のために個人を犠牲にして顧みない“怪物(リヴァイアサン)”ではないのかと、21世紀となった今も改めて考えさせられる。


追記2:
 それにしても上で紹介した「Toy Soldiers:Cold War」のトレーラー、曲がいいね。ヒアリング能力…というか英語力がアレなんでよく聞き取れないが、歌詞も面白いコト言ってそうな雰囲気がある。
 現在の管理人お気に入りのBGMは、このトレーラーとBF3の「Caspian Border Gameplay」動画である。エンドレスで流してると脳味噌が愉快なことになります。BF3のソレはほとんど銃声と爆発音だろって? 何言ってんだ、戦場のBGMなんてそれだけありゃ十分じゃねぇか。
 ごめんうそ。たまには女性歌手のポップな歌声が流れるドンパチゲーがあってもいいと思います。ネタとしてね! カスタムサントラで我慢しなさいって話だが。



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