12.10/13 その181 Sleeping Dogs:香港秘密警察――孤独で凶暴な犬の箱庭



 悪党、クルマ、鉛弾、素敵なものいっぱい…全部まぜると、むっちゃクールなクライムアクションができる!はずだった…。だけどユナイテッド・フロント・ゲームズは確信犯的に余計なものも入れちゃった! それはカンフーアクション!



 パワーパフギャングス…じゃなくて『SleepingDogs:香港秘密警察』をやっておりましてね。当初はノーチェックだったものの、海外レビューの評価がやけに高いので手を出してみたらあら不思議。イイ感じに本能を刺激する、バイオレンス&ハイスピードな暗黒街ゲーだった。
 本作は香港を舞台にしたオープンワールド系クライムアクション。主人公は潜入捜査官としてトライアド(三合会)と呼ばれる犯罪組織に潜り込み、組織の上部に食い込むため悪党どもの中でのし上がっていく……というもの。

 もとはGTAフォロワーのひとつである「TrueCrime」シリーズ最新作として作られていたが、販売担当のアクティビジョンが「私は一番が好きなの。GTAを越えられないアナタには興味ないわ」というノリで開発を中止してしまい、段ボール箱の中で雨に濡れて震えていたところをスクウェアエニックスが拾い上げたという経緯を持つ。

 洋ゲー関連のスクエニは余計なことしかしないというイメージが未だにあるが、本作の件に関してはよくやったと褒めてよいと思う。管理人はGTA4をプレイしていないので比較はできないが、これはこれで実に楽しい。男の子の本能に訴えかける要素を、ツボをつかんで取り込んでいると思う。すなわち、



バイオレンス!






スピード!






エロス!




 ごめん最後間違えた。なんか一番インパクト強かった女性キャラだったもんで。
 まぁそれなりにキレイどころの女性もいるにいるが、そこは別にどうでもよろしい。本作の魅力は、先に述べたがバイオレンス&ハイスピード、特に徒手格闘によるアクションに尽きる。
 そこも含め、各項目別にあれこれ語っていきたい。


■格闘編――華麗さと泥臭さの同居

 冒頭のネタで余計なもの扱いしといてなんだが、本作の最大の特色であり一番の魅力は、この格闘バトル、カンフーアクションではないかと思う。
 操作はXで攻撃(長押しで強攻撃)、Yでカウンター、Bで掴みと、比較的シンプルだ。繰り出せる技は特定のアイテムを入手することで習得でき、コンボの決め技や掴みからの派生技などが次第に増えていく。とはいえ格闘の大きな魅力はカウンターと、掴み→Bで繰り出すオブジェクト攻撃だろう。
 カウンターはBatman:Arkhamシリーズと同じく敵の攻撃を華麗に捌く、防御即反撃となるタイプ。思うにこのシステム、主人公の強さを堪能できるだけでなく、戦いの流れを途切れさせない点が爽快感を後押ししていると思う。
 それになにより、見ていて非常にカッコいい。本作の格闘はボタン連打のコンボでガンガン押していくタイプだが、それでも時には手を止めてカウンターを誘いたくなる。
 一方でオブジェクト攻撃は、カンフーのカの字もないチンピラ丸出しの喧嘩ファイトって感じの泥臭さにあふれていて実に良い。掴んで壁やテーブルに叩きつけるのが基本だが、ゴミ箱に叩き込んだり配電盤に突っ込ませたり、はたまた車のトランクに放り込んで車ごと海に投棄してみたりと、エゲツなくもエンジョイフルな戦いっぷりを演じることができる(最後のは喧嘩じゃなくて殺害の手口だよね)。

 一応断っておくと、管理人は良識も常識も人並み以上に備えた紳士なので、このような暴力行為を働くのはたいへん心が痛む。しかし主人公・ウェイの身の上は犯罪組織に潜入する秘密捜査官。ギャング以上にギャングらしくあらねばならない。だからこれは仕方なく、やって、るん、です、よっと(敵の頭を車のドアでガンガンやりつつ)。

 今世代のアクションゲームはFPS/TPSを中心にドンパチゲーに偏っているきらいがあり、拳骨で語り合うようなゲームは多くない。その意味で、本作の格闘パートはベアナックル・ファイトへの渇きを癒してくれる。闘争の最も原始的な姿とは肉体と肉体の激突であり、そこに込められた美学はいかに時代が変わろうと色褪せることはない。

 ――拳と蹴りが交錯し、肉体がぶつかり合い、骨が軋みをあげる。幾度となく地に伏しても闘うことにのみ悦びを見出す魂は、いつしかその中にしか生きる意味を見出せない無明の闇へと堕ちる。だが、堕ちてなお闘うことをやめない男なら、昏い闇の底に自分だけの灯火を見い出だすことができるかもしれない。
 ひとつ確かなことがあるとすれば、喧嘩ではガタイの良さがものをいうということだ
(←デブの前蹴りでアスファルトに転がりつつ)。


■ガンファイト編――カバーは弱者のためにある

 暗黒街モノといえばやっぱり銃器は欠かせないと思うのですよ。陽のあたる世界の法やモラルが通用しない、不条理で無慈悲な“暴力”の象徴であり、同時にそんな世界に反逆する者の手にも、自身を――あるいは他の何かを守る力を与える。
 そのくらい銃というものは大きな存在感を持つガジェットであり、コストの範囲内ならどれほど愛情と執念と情念を注いでもやりすぎということはない。
 そこへいくと本作の銃描写はいささか残念な水準にとどまっている。モデリングがやや適当で、それをごまかすせいか妙にピカピカしており、オモチャっぽく見えるのだ。これはギャルゲーでいうとヒロインの造形が可愛くないに等しい(比較するとMax Payne3はドリームクラブばりに良く出来ていた)。
 この他にも強制エイム補正うぜぇとか、銃が使えるようになるのが遅ぇとか、そもそも銃撃戦パートが少ねぇとか不満点は色々あるのだが、本作独自のスローモーション能力が面白カッコいいので許せてしまう。

 ユニークなのはその発動方法で、ゲージ等を消費するのではなく「遮蔽物を乗り越えつつLT(エイム)で発動」となっている。乗り越え動作が終わってもしばらくはスローが持続するが、この「カバーから出て敵の射線に身を晒す」というリスクと引き換えになっているのが面白い。
 このアイデアは、練り方次第でもっと面白くできそうな気がする。さじ加減次第ではおかしなことになる危険もあるだろうが。


Sleeping Dogs スリーピングドッグス Part3

627 :なまえをいれてください:2012/10/05(金) 19:21:32.39 ID:ZUQ3c8h7
  遮蔽物飛び越えスローモーションは映画的でかっこ良くキメると気持ちイイけど、
  倒しきれなくてまた戻ると一気にかっこ悪くなるな



 カバーを飛び越えつつ片手撃ちで複数の敵を華麗にヘッドショット。しかし倒しきれず「やべっ、もう一回」とばかりに回れ右してもう一度カバーを飛び越え…ようとして背中を撃たれて死亡とか、自分のプレイながら目を覆いたくなるような無様さがある。
 それでも、瞬間の美を求めてカバーを乗り越えるのは強烈なアクセントとして働いている。

 ――跳躍する。腕を広げて迎えようとする死神の懐へ。マズルフラッシュの中から襲いくる弾丸が体をかすめ、命を削り取ろうとする。だが、生と死が超音速で交わるその領域にこそ、銃撃戦の“悟り”は存在する。
 ひとつ確かなことがあるとすれば、エイムの甘い奴にヒーローへの道は遠すぎるということだ
(←こそこそカバー裏に戻りつつ)。


■カーアクション編――スピードの向こう側

 最初に断わっておくと、管理人は車にあまり愛着がない。流線型のスポーツカーを見て漠然とカッコイイなと思いはしても、そこからさらに見聞を深めようと思ったことはない。おそらく、知識量としては車より戦闘機の方がまだ多いだろう。
 それでも、高速で背後にスッ飛んでいく風景と鼓膜を震わせるエンジンの排気音は、やはり脳味噌の芯にビンビン来る。迅く疾るために創られた獣たちの咆哮は、己の内に眠る獣もまた目覚めさせずにはおかない。



管理人の内なる獣(想像図)



 ゴマフアザラシはさておき、この手の箱庭ゲーの常として本作も車の存在感は大きい。ゲーム中ではカーチェイスしながらの銃撃戦もあるし、街中ではイベントのひとつとしてストリートレースを嗜むこともできる。
 レースの難易度はそう高くないので、車ゲーのジャンルを好む人には物足りないかもしれないが、車に加えてバイクレースもあるし、悪党を殴っていて急に“スピードの向こう側”が覗きたくなった時には手軽にその欲求を叶えてくれるだろう。

 ――我、疾る故に我有り。時速200kmの世界に棲息するスピードの精霊と化し、極限を目指して走り続けた先に何があるのか。あるいは、ありもしない答えを求めて死滅回遊魚のごとく走り続けることが我らの背負った呪いなのか。
 ひとつ確かなことがあるとすれば、コースシグナルを見落とす奴はどこへもたどり着けないということだ
(←盛大に道を間違えて涙目でコースに戻りつつ)。


■バイオレンス編――お前はシチューにしてやろうか

 Z指定の洋ゲー、それも香港黒社会を扱ったゲームだけあって、バイオレンス描写はかなり容赦がない。問題はローカライズの際にどれだけ規制が入るかだ。
 スクエニの洋ゲーブランド「エクストリームエッジ」のローカライズは全幅の信頼を寄せられているとは言い難く、特にJust Cause2(2010)ではミッションの削除も含めた大幅な規制を行い、「何がエクストリームエッジだ、セーフティゾーンとでも名乗りやがれ」とユーザーから罵声を浴びせられた。

 だが、本作に関して言えばそういう心配は無用だった。何かと規制されやすい「一般人への暴力行為」も制限はないし(ペナルティはある)、拷問とか処刑とかのシーンはむしろこっちが「コレ大丈夫なのか」と心配になるレベル。特に生きたままカキ氷にされちゃう奴とか、もう笑うしかねぇって感じだった。今後海外旅行へいくことがあっても香港だけは避けようと思わせるに十分な出来だ。

 最後まで通してプレイしてみたが、ローカライズは結構いい出来ではないだろうか。トライアドにおける階級を示す専門用語「紅棍」「二路元帥」なども再現されているし、雰囲気を損ねるような誤訳・意訳はなかったように思う。
 ……翻訳者の中には分かりやすさを重視するあまり“幇主”を“お頭”なんて訳しちゃう人もいるんですよ。本作がそんなことにならなくて良かったと管理人は胸をなでおろしている。


■お色気編――車の中で……したことある?

 暗黒街ゲーの常として、きらびやかなおネーちゃんはもちろん登場する。サブイベントではそういったセクシーな女の子と熱い関係になったりもするが、全体的に見て女の子よりも主人公・ウェイのセクシーさを魅せる方向に寄っているように感じる。危険な香りのする男に女の子は弱いの☆的な。
 あれですよ、ドリクラのライバルキャラとしてウェイさんが登場すると結構キビしい戦いを強いられるんじゃないですかね。なんだかんだでかなり口は上手いし、カラオケのポテンシャルも高い。時にはパンツ一丁(+革靴)で来店したりと体を張ったギャグもこなせる。でも体つきはガッチリ締まってて素敵! 抱いて!って勢いでVIPルームでフランクフルトですよ。マスタードは好きかい?
 とりあえずドリームクラブ香港支店とかできないよう祈るしかないね。どっちにせよパンイチで来店するような人はピュアか否かに関わらず入店はお断りすべきだと思いますが。


■ストーリー編――すべてケリをつけてやるぜ

 いわゆる「潜入捜査官」を扱った映画は数多い。このゲームで『インファナル・アフェア』を思い出した人は多いだろうし、それのハリウッドリメイクである『ディパーテッド』も高く評価された。90年代にはジョニー・デップとアル・パチーノが共演した『フェイク』が、80年代にはチョウ・ユンファとダニー・リー共演『竜虎風雲-友は風の彼方に』という作品も撮られている。

 そこで本作のストーリーだが、こちらはマフィアの仮面と警察官という本質の間で揺れ動く葛藤には重きを置いておらず、むしろ「仮面に次第に飲み込まれてゆく危うさ」に振れているように感じる。
 主人公・ウェイは姉を麻薬中毒で亡くしており、その原因となったトライアドに強い憎しみを抱いている。そのため今回の任務には思い入れがあり、劇中である人物から「お前は感情的になりすぎている」と幾度も指摘される。

 だが敵対組織との抗争や内部の対立を潜り抜け、次第に頭角を現していくウェイの姿は、暗黒街の住人を演じることに熱を入れすぎ、本来の姿を忘れつつあるような危うさをどこかに感じさせる。

 これは本作のメインミッションがもっぱらトライアドの側で進行することによる弊害かもしれない。警察官としての捜査ミッションはサブ扱いで、管理人はこっちはあまり触ってなかったのだが、これもコンプリートすればまた違う面が見えてくる可能性はある。

 とりあえず、ゲームを牽引するストーリーとしては十分及第点に達している。特に終盤の展開は、オーソドックスながら熱くてよい。


●まとめ

 本作は箱庭ゲーの中でもかなり「戦闘」に特化した作りのゲームだといえる。いわゆるオープンワールド系ゲームは「広大なマップを自由に歩き回る」ことに主眼を置いており、いきおい個々のアクションは薄味になる。本作も例外ではないが、限られたリソースを主に格闘パートに振りつつ、ガンアクションにおいても独特のスロー演出を盛り込んで差別化を図っている。

 これは暗黒街という暴力と隣り合わせの世界を描くにあたり、かなり的確な方向性ではないかと個人的には思う。要は「ギャングになって何がやりたいか」ということだ。美しい風景を眺めながらドライブがしたいのか? 町ゆく人に意味もなく喧嘩をふっかけたいのか? アイスクリームを販売して子供らに笑顔をプレゼントしたいのか?
 そういう楽しみも箱庭ゲーのひとつの醍醐味だろうが、一番楽しいのはやっぱり「敵と戦うこと」だろう。打・斬・折・砕・撃。人体を破壊するエッセンスを暗黒街という舞台に散りばめた本作は、雰囲気重視のアクションゲームとしてみた場合、かなり高水準だということができる。


 欠点もなくはない。いかんせん箱庭ゲーとしては密度の点で他の大作に及んでいないことは確かだ。
 刑事が主人公の初代TrueCrimeでは街中をパトカーで走っていると犯罪発生の警察無線が入り、現場に駆けつけて犯人を逮捕するというランダムミッションが存在した。こういうものがあれば、香港の街中を走り回る楽しみがもう少し増えただろう。
 サブミッションの数も膨大とはいいがたく、7000円超という日本語版の定価を考えれば割高だと感じる人もいるに違いない。
 ただ、個人的には暗黒街アクションの傑作のひとつとしてずっと手元に置いておきたいゲームだ。



※過去のオープンワールド更新
雑文その164・Batman:Arkham City――俺の拳骨がゴッサムを救う
雑文その131・Red Dead Redemption――もうずっと荒野でいいや
雑文その129・Red Dead Redemption――愛は荒野の彼方に
雑文その95・Red Faction:Guerrilla――デストロイ・オール・EDF!!
雑文その62・FALLOUT3――世紀末悪党伝説はじまるよー☆
雑文その61・FALLOUT3――ひとりで殺れるもん



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