12.01/03 その164 Batman:Arkham City――俺の拳骨がゴッサムを救う





 昨年最後の更新は「管理人的シューター総括」として2011年のゲームライフを振り返ったわけだが、書き残したことがあるのに気づいた。いわゆるドンパチゲー以外の暴力ゲーで、とても素晴らしいゲームがあった。




 『バットマン:アーカム・シティ』(公式)。ゴッサムのなまはげことバットマンのゲームとして、前作『アーカム・アサイラム』に劣らず高い評価を得ている作品である。
 個人的にシューター以外のジャンルではNo.1の満足度であり、GOW3やF.E.A.R.3も含めた総合ランキングでも1位か2位を争う。そんなわけで今回はこのゲームについて心ゆくまで語りたい。

 …あ、ちょっと待って! 今ブラウザ閉じようとしたでしょ!? 「バットマンとか興味ねーし」って! いいのか? そんなんで良ゲーとの出会いを棒に振って本当にいいのか!?
 …うん、まぁ気持は分かる。管理人だってこれがバットマンではなくパーマンのゲームだったら、いかに評判が良くてもそう簡単に買おうとは思わなかっただろう。
 そこで今回はバットマンに興味のない人にむけて、原作の話は一切せずにこのゲームの良さを語っていきたい。アクションと悪党が好きな人なら共感できる部分が少なからずあると信じる。項目別に解説するが、かなり長くなるので各項目へ直接飛べるようリンクを貼っておく。

(1)戦闘――さあお仕置きの時間だよ
 ・コンバット編
 ・プレデター編
(2)移動――もうチンタラ歩いてられないよ
(3)舞台――ドキッ♥ 悪党だらけの刑務所都市だよ
(4)ミッション――ハテナ野郎ブッ殺すぞ




(1)戦闘――さあお仕置きの時間だよ
 ・コンバット編


 本作のアクションパートは悪党どもを正面からボコり倒す“コンバット”と、ステージ内を徘徊する敵をひっそりと仕留めていく“プレデター”に大別されるが、そのうちコンバットの出来が素晴らしく良い。管理人がこのゲームを愛する最大の理由がコレだ。
 アクションの基本となるのは攻撃(X)とカウンター(Y)の2つだが、こちらの最初の攻撃は発生が遅いため、いきなり猛ラッシュで敵を蹴散らすことはできない。しかしコンボが3Hit以上になると攻撃の威力が上がってスピードも速くなり、射程距離もほぼ無限(画面外の敵にもダッシュですっ飛んでいって攻撃する)になって、さながら吹き荒れる暴風の如くに敵を倒せるようになる。
 防御はないがその代わりになるのがカウンターで、ボタンを押すだけで攻撃を避けたり受け止めたりたりして返しの一撃を見舞うことができる。この攻撃もコンボに加算されるので、敵に囲まれてもコンボを途切れさせることなく戦える。

 そしてこれらのアクションは、動作のひとつひとつが驚くほどバリエーション豊富でカッコいい。特にカウンターは攻撃してくる敵の数や位置関係、自キャラのいる場所などによってそのつど変わる。
 パンチを受け止めて肘打ちを叩き込んだり、素早く横に回って一撃を加えたり、後ろからの蹴りを足を掴んで転倒させたり、頭を掴んで背後の手すりにぶつけたり、二人まとめて地面に引き倒したりと多彩極まりない。攻撃とカウンターを繰り返しているだけでも「俺ってなんかカッコいいかも」という気分にさせてくれる。

 思うに、このコンバットのシステムはデビルメイクライやNINJA GAIDENといったアクションゲームとは基本的な立脚点から全く別物だ。あちらが「戦闘」を追及しているとしたら、コンバットは「殺陣」を意識しているように思える。
 アクションゲームにおけるキャラクターの動きの描写は、大別すると「攻撃モーション」と「やられモーション」に分けられる。コンバットもそれは同じなのだが、膨大な数のモーションを状況によって使い分けることにより、よくできたアクション映画のように流れるような美しい“戦闘シーン”を演出することに成功している。

 こういう書き方だと「演出重視のお手軽ゲー」みたいに思われるかもしれないが、それもちょっと違う。確かに他と比べると死ににくいゲームではあるが、コンボでハイスコアを狙ったりカッコよく戦うことを意識すると、熱中度は格段に高まる。
 じゃあそういうの無視してボタン連打なら楽勝なのか、といえばそうでもないのがバランスの妙だろう。先にも述べたが最初の一撃が遅いので、囲まれた時に闇雲に攻撃しようとすると袋叩きにされる。つまり必然的にカウンターを混ぜながら戦うことになるわけで、慣れないうちもそれなりに見栄えのする戦いになる。
 そして慣れれば戦いの場を完全に支配し、華麗かつ圧倒的かつ暴力的な鉄拳制裁の時間、すなわちスーパーバットマンタイムで悪党どもをKOできるようになるわけだ。

 ちなみに攻撃手段はこの他にも多彩な特殊技や、バットラング(手裏剣)のようなアイテム攻撃が豊富にある。初めのうちはとても全部は使い切れないと感じるが、これまた慣れるうちに適宜使い分け、戦いを有利に、かつ美しく進めることができるようになる。
 様々な美点がある『アーカムシティ』だが、このコンバットこそ前作から引き続いて最大の“発明”ではないかと思う。


 ・プレデター編

 もうひとつ、本作におけるアクションの柱となっているのが「プレデター」と呼ばれるゲームモードだ。いわゆる天誅やスプリンターセルに代表されるステルスゲーといえば分かりやすいだろう。
 管理人はこのジャンルはあまり触れていないので特に熱く語ることもないのだが、他と比べて難易度は若干低めではないかと思う。ステージ内には大抵全体を俯瞰できる観察場所があるし(大広間の壁に飾られたガーゴイル像など)、LBで「観察モード」をONにすれば敵の位置が壁ごしでもはっきり分かる。管理人は脳筋よりのゲーマーなので慎重さや思考力を求められるゲームは苦手なのだが、こういう便利さに助けられて楽しくプレイできた。
 一方、ゲームシステムとはあまり関係ない部分で気に入った要素がある。敵のビビりっぷりである。周りの人間が一人また一人と消えていくにしたがって怯えていく悪党たちの姿には、コンバットの高揚感とは違う嗜虐的な悦びをかきたてられる。
 「畜生、バットマンめ! テメェなんざ怖かねぇぞ!」と、明後日の方向に銃を向けながら(裏返った声で)怒鳴る悪党の背後に忍び寄る時のゾクゾク感がたまらない。
 コンバットとプレデター、全く方向性の違うアクションパートだが、そのどちらもよく練られており遊び応えがある。この両方ともスコアを競うチャレンジモードが用意されており、キャンペーンとは別にじっくり遊べるようになっているのも嬉しい部分だ。とにかくひたすら悪党をボコりたい時や、暗闇に潜みつつサイレントにボコりたい時にもサクっと遊べてちょうどよい。

 良いアクションゲームの条件は繰り返し遊びたくなること、自分の上達が感じられることだが、本作にもそれは当てはまる。最初は便利なシステムに助けられ、一方で豊富な技やアイテムを持て余していたものが、キャンペーンを終える頃にはそれらを使いこなしている自分に気づく。このあたりも中毒性のある所以だろう。


(2)移動――もうチンタラ歩いてられないよ

 本作の舞台は「アーカムシティ」と名付けられた収容所で、ゴッサムシティの一部を塀で囲んだ閉鎖区画になっている。どこもかしこも囚人だらけの無法地帯をあちこち回ってミッションを進めていくことになるわけだが、基本的な移動手段となる滑空(グライド)がすごく楽しい。
 ワイヤーフックをひっかけて高所に登り、そこからマントを翼の如くはためかせて滑空する。これが非常に爽快だ。一部のミッションを進めるとフックを発射して移動後、タイムラグなしで滑空に移れるようになり、慣れれば滑空とフック移動を繰り返して地上に降りることなく長距離を移動できるようになる。

 アーカムシティのマップは他の箱庭ゲーと比べれば広い方ではない(そのぶん縦方向への広がりがある)が、それでもマップの端から端は結構な距離がある。だがこの滑空のおかげで長距離移動が全く苦にならない。それどころか非常に楽しい。この手のアクションゲームにおいて「戦闘」と「移動」が楽しいというのは、他の欠点を差し引いても有り余る美点だ。
 バットマンのファンからすればバットモービルみたいな乗り物が欲しかったという不満もあるだろうし、管理人も多少そう思わなくもない。だが個人的にはむしろ、この滑空でタイムを競うチャレンジモードがないことの方が不満だ。飛ぶのはキャンペーンで堪能してくれっていうことかもしれない。

 悪徳の街を見下ろしながら飛び、眼下に悪党どもがたむろっているのを見つけたら急降下しておしおきタイム。たまにはそういうまったりとした遊び方もいい。


(3)舞台――ドキッ♥ 悪党だらけの刑務所都市だよ

 舞台となるアーカムシティは一応は刑務所都市ということになっているが、実態は悪党どもを手当たり次第に放り込んだ蠱毒の如き吐き溜めである。「TIGER」という特殊部隊のヘリが監視に当たっているものの、悪党たちの行動を縛るような看守は存在しない。
 つまり腐敗と自由と暴力の真っただ中なRock landなわけである。バイオレンスな洋ゲーを愛する人にとってこれがどれほど魅力的な舞台設定か、今さら語る必要もないだろう。
 本作はバットマンの名だたる悪役がそれぞれ徒党を率いて縄張り争いをしているわけだが、配下のチンピラどももボスに準じた扮装をしているのが個人的にツボだった。

ジョーカー軍団

(白塗りのピエロメイク)

ペンギン軍団

(袖のペンギン模様とペンギン風目出し帽)

トゥーフェイス軍団

(右半分が白、左半分が黒に分かれたマスクと服)


 こういうそろいのコスチュームって好きなんですよ。もともと集団vs集団の覇権抗争みたいなシチュエーションが好きなのもあるけど、ビジュアルにも独自色があると見た目にも映える。……いや今回は管理人の好みとかはどうでもいいね。
 とにかくどいつもこいつもそろって凶悪なナリであり、刑務所都市という舞台にふさわしい華を添えている。彼らのようなチンピラをしばき倒すたびに、管理人は悪党への愛を再確認…ごめんそういう話はもういいよね。

 ひとつ付け加えると、このチンピラたちは笑いを誘うような側面も持っている。彼らはそれぞれのボスの下でアジトまわりの警備などをやっているのだが、結構色々とくっちゃべっている。アーカムシティの過酷さに不平をもらしたり(何せろくに食事もない)、バットマンの噂話をしたり、またストーリーが進むごとにボスたちのその後について憶測を語り合ったりしている。中には「トゥーフェイスがまともな方のツラも剥がされて、今はワンフェイスと名乗ってるらしい」など、そんなわけねぇだろ!と突っ込みたくなるようなものもあって面白い。
 中には暇を持て余して遊んでる奴らもいたりする。以下2chのスレから抜粋。


Batman: Arkham Asylum/city part11

895 :なまえをいれてください:2011/12/10(土) 22:45:31.71 ID:4lyzZCvZ
  チンピラ共の特殊な行動って何がある?
  立ちション、ゴルフっぽいこと、腕立てぐらいしかみたことない

896 :なまえをいれてください:2011/12/10(土) 23:02:16.37 ID:Q84uCbBQ
  >>895
  俺的にはフリーズの奥さんがいる所のチンピラ達のジャンケンが笑ったw
  んで、突然そこにバッツさんが登場してボッコボコにするってのがまたいいw

902 :なまえをいれてください:2011/12/10(土) 23:24:53.41 ID:DlWFfBfb
  >>895
  ボクシングごっこしてる奴らがいたぞ。なんか微笑ましくてずっと見てたわ
  もちろんその後はボコったけど

913 :なまえをいれてください:2011/12/11(日) 01:52:40.18 ID:QXNyJeUt
  雑魚の変わった行動と言えば野球やってる奴等も居たな。
  二人組みで武器として使ってる金属バットで遊んでた。
  今回雑魚は台詞の多さに加えてこういった生活がある所がいいなw



 管理人が見た中で面白かったのは、次のような会話をしていた二人組。

「俺、最近体鍛えてんだ。ちょっとバットマンに似てきただろ?」
「はぁ? 何言ってんだアホか」
「へへ、まぁ見てろって。バットマンが出たら俺が守ってやんよ」


 いざバットマンが目の前に現れたら威勢のいいこと言ってた方が腰抜かしてたのは笑った。本作はサブキャラの猫耳美女や日本人好みのツインテール美女など美人さんがちらほらいるが(→)、萌え&癒し要員はむしろこういう名もないチンピラどもだろう。
 …あ、ちょっとヤなこと思い出した。後半のミッションで敵対組織に殺されそうになってるチンピラを助けてやったんだけど、そいつこっちが後ろ向いてる時に殴りかかってきやがったんだよ。
 「この野郎……死なない範囲内で可能な限りの攻撃バリエーションを試してやろうか?」と思ったらカウンター一発であっさり沈んでしまい、怒りのやり場に困った。

 思うに本作は、こういったザコ悪党との触れ合いを重視したゲームとも解釈できる。上記のように連中の横顔をこっそり覗いてもよし。コンバットで正面切って殴り倒すもよし。プレデターで恐怖におののく様を観察するもよし。足りない要素と言えばバイオレンスな処刑プレイくらいだが、殺しはバットマンの信条に反するのでこのゲームに求めるべきではないだろう。
 なんにせよ悪党に対する愛を多様な形で充足させるゲームとして、本作が高いレベルにあるのは間違いない。


(4)ミッション――ハテナ野郎ブッ殺すぞ

 この手の箱庭風ゲームの常として、本作も多様なサブミッションが存在する。連続殺人犯の手がかりを追ったり、弱い者いじめをするチンピラをしばいたり、バットマンに電話をかけてくるシリアルキラーの話し相手になってあげたりなど、刑務所都市らしいイベントが用意されている。
 散歩気分で空を飛んでいてもミッションのトリガーとなるようなチンピラの会話が耳に入るので、メインのストーリーを進めているのを忘れて寄り道してしまうこともしばしばだ。これらも移動が苦にならない要因のひとつに挙げられるだろう。

 サブミッションの中で最も数が多いのは、“?”をトレードマークにした「リドラー」という悪役がアーカムシティ中にバラまいたパズルの数々だ。頭を使うものやテクニックを求められるものなど大量のものが用意されており、クリアするごとにチャレンジモードのステージやコンセプトアート等々のおまけ要素がアンロックされていく。
 そこいらを飛んでいても緑色の「?」マークが目に付き、シティ全体を網羅するその規模からすればこのリドラーこそラスボスではないかとすら思えてくる。
 で、このリドラーによるミッションなのだが…実は評判が悪い。本作を絶賛する人でもこれに関しては欠点に挙げる人が多数である。その理由というのはこのリドラーミッションが実績に関連しているため、その膨大な数とあいまってプレイヤーを疲労させてしまうというものだ。実績をコンプリートしないと気がすまない人にとっては「限度ってもんがあるだろ!」と怒鳴りたくなるのも無理もない。

 だが管理人のように実績に無頓着なプレイヤーにとっては、気が向いた時に遊べる手軽なパズル(手軽じゃないものもある)が山ほどあるようなもので、さして減点対象にはならない。コンバットチャレンジのステージは全部解除できたし、後はほんと息抜きのようなもんである。
 でもチャレンジであのハテナ野郎にデカい面されるのは気に食わないな! タイマンで勝負しろやコラ!

 あと欠点として挙げられるのは「ストーリーは前作の方が良かった」ということか。確かに物語の出来は少々惜しい。「バットマンの存在が敵を創り出している」というテーマや宿敵との決着など盛り上がる要素を扱ってはいるものの、いまいちうまく消化できてなかった感がなくもない。
 奥歯にモノのはさまったような言い方なのは、実はストーリーをよく覚えていないからだ。その、寄り道ばっかりしてたもので…。まぁ他と比べて明らかに水準以下ということはないので、落第点を付けるほどではないかなと思います。

 個人的に残念なのは、
公式サイトのトレーラーで流れている超カッコいい曲“Short change hero”(The HEAVY)がエンディングで流れなかったこと。…うん、管理人が勝手に期待してただけのことなんけどさ。
 F.E.A.R.3の“Mother”(Danzig)やMedal of Honorの“The Catalyst”(Linkin Park)とタメ張るくらいエンディングにぴったりの曲だと思ったのだが。まぁ、今のエンディングテーマも切ないラブソングみたいで悪くないとは思いますが。

 長々と書いてきたが、バットマン:アーカム・シティの魅力をお分かりいただけただろうか。「世界じゃ人気らしいけど、どうせキャラ人気なんでしょ?」と思っている人もいるだろうし、それも別に間違いではない。ただそれを抜きにしても確実に面白く、ものすごいレベルで作り込まれた一流のアクションゲームであることに変わりはないのだ。
 今年の夏には映画「ダークナイト・ライジング」も公開されるし、予習のつもりで遊んでみるのも一興ではないだろうか。そんで次のステップとしては『バットマン:ノエル』や『JOKER』や『マッドラブ/ハーレイ&アイビー』や『ラバーズ&マッドメン』や『キリングジョーク』といった邦訳コミックにも触れてみてですね……うん、ごめん。この話はまた今度にしよう。


追記:
 書き忘れていたが、前作「バットマン:アーカム・アサイラム」はまだ体験版がDLできるので、多少なりとも興味を持たれた方はそちらを試してみることをお勧めする。コンバットなど基本となるシステムは前作からの踏襲なので、ゲームの大枠は掴めるはずだ。



※過去のアメコミ更新
雑文その159・アメコミ映画のススメ――バットマン・オリジナルムービー
雑文その141・アメコミのススメ――『グリーンランタン:リバース』
雑文その140・アニメ版X-MENがいい感じらしい
雑文その135・アメコミのススメ――『キングダム・カム』



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