10.09/26 雪女・2
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潮騒に 足をとられて 雪女
  ――高橋謙次郎



 夏といえば雪女ですよね。
 冬はおっかない絶対零度のクールビューティーも、陽光の照りつける夏にはそのひんやり具合が好ましい。この時季を一緒に過ごしたい妖怪なら雪女一択といっても過言ではないだろう。
 暑い時こそ熱いモノ食うのが美味いんだ、などとぬかすタフガイ気取りは火前坊あたりと同衾して好きなだけ汗を流せばよろしい。管理人は涼しい方がいいので雪女をリクエストさせていただく。

 冗談はさておき本題だが、雪女はヒロイン系妖怪としてとてもメジャーな存在だ。昔話にとどまらず、妖怪を題材にとった作品のほとんどに顔を出している。ゲームでも忍者じゃじゃ丸くんのおゆき、ライトニングレジェンドの銀雪(しろがねゆき)、モータルコンバットのサブゼロ……は、忍者か。とにかく色々いる。
 管理人もそういった作品はある程度おさえているが、最近新たなフロンティアを発見した。上でも紹介した「俳句」である。

 雪女(雪女郎)は冬の季語として歳事記にも載っており、古典の時代から現代まで雪女を登場させた句は数多い。そういう意味では今更フロティアなどと騒ぐようなものではないのだが、個人的には新たな驚きですよ。
 多くは雪の比喩、または冷たい女性、美しい女性の例えとして用いられているように感じるが、中には「雪女郎 イナバウアーをしてゐたり」(喜龍けん)のように、雪女の一般的イメージを逆手に取ったユーモラスなものもあったりして面白い。

 やっぱり雪女萌えはスタンダードなんですねとズレた方向に納得した管理人だが、雪女という妖怪のイメージが親しみやすい方向へ変化しているのは確かだろう。上で紹介した「潮騒に〜」も、管理人の脳裏には海辺ではしゃいで転ぶ雪女が浮かんでくるんだよな。







 他にも海とのつながりを連想させる句には「あしうらを 砂の流るる雪をんな」(斎藤梅子)というものもある。

 詩人の清水哲男氏によれば、俳句におけるこうした雪女像の登場は比較的最近のことらしい。つまり文明の発達によって冬の寒さはもはや脅威ではなくなり、旅人を凍死させるような雪女の恐ろしいイメージも薄れてきた結果だそうだ。
 たしかに古い時代の句、たとえば正岡子規の「雪女 旅人雪に埋れけり」などはまさしく無慈悲な自然現象としての雪女であり、これと比べれば上に挙げた雪女はその魔性が影を潜めているとも言える。
 だが管理人としては、雪女というキャラクターにより広がりが出たと解釈したい。雪女萌えのみんな。俺たちはマイノリティーじゃないぞ!

 ま、あれだ。冷たく恐ろしく、そして悲しい雪女は冬に堪能すればいい。
 夏の雪女はちょっとハメ外して涼しくいこうぜってことだ。








ひとの世の 遊びをせむと 雪女郎
  ――加長谷川双魚



 冬場は雪山で旅人を凍殺して回るのが仕事の雪女だが(←偏見です)、夏場はあんがい人里に降りてトロピカルなバカンスをエンジョイしてるかもしれないよね。今回は描かなかったが、もしかすると水着(当然白のビキニ)で泳いでたりとか想像すると楽しいよね!

 なに? 夏は弱るか溶けるかするんじゃないかって? まぁそう考えるのが普通だわな。だが時代の移り変わりに従って進化した種もいるかもしれないではないか。昼間も出歩く半吸血鬼「デイウォーカー」(byブレイド)になぞらえて「サマーウォーカー」な雪女とかね。であるならば、夏の行楽地に繰り出す奴がいても不思議はあるまい。
 待てよ、じゃあオチに紹介するならこの句がいいかな?



帰るバス なくなつてをり 雪女郎
  ――火箱游歩



 句から浮かぶ情景はしんしんと雪の降り積もる田舎のバス亭なのだが、夏なら陽射しの照りつける、海に面した国道沿いのバス亭だな。
 さすがにサマーウォーカーでもきついかもしれんが、がんばってヒッチハイクだ!


追記:
 今はもう秋じゃねーの? と突っ込んでる諸兄へ。管理人のルールでは9月一杯までは夏です。文句あっか。

追記2:
 ちなみに最後のコマのかき氷、メニューにある「氷悪党(100円)」でいく予定だったが、涼気というより猟奇になりそうなので自重した。普通のかき氷です。普通の。



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