10.11/01 その130 お姫様抱っこについて語ろう




 「お姫さま抱っこ」っていいよね。こう、ロマンがあってさ。
 運搬方法としては合理的とは言いがたいが、胸の前で抱きかかえるという行為は男性がその女性を大事に思っていることが伝わるし、また女性の側もそれを受け入れることで、男性との信頼関係が築かれていることが分かる。見ていてこう、心が温まるようではないか。

 とはいえ、なかなかリアルではお目にかかれない&する機会がないのも確かだ。
 彼女ないし妻が貧血で倒れた、足をくじいて歩けない、その上でゾンビの群れが押し寄せてきたとかいうシチュエーションにはそうそう出くわさないものだ。
 さらに言えば、上で挙げたようなロマン性が本当に求められているのかについても考慮の余地がある。

 今年の始めごろにも、女性向け情報サイトで「お姫さま抱っこをされたいか」というアンケートを行ったところ、「御免こうむる」という意見が多かったという結果が出ている。

お姫さまだっこは、本当に「女子の憧れ」か?【独女通信】


「男女双方にメリットがあると思えない、リスキーな行為。(中略)女性は『重いと思われないかな』と心配になるし、男性だって絶対、『持ち上がるかな…』と考えると思うんですよ」

 対象が30代ということもあってか、かなり現実を見据えた意見といえる。
 実際、男からすれば極めてリスキーだ。日頃からスポーツなどで鍛えているならともかく、そうでない人にとっては結構な労働だ。単に持ち上がればいいというわけではない。だって、見栄をはらなきゃいけないからね。「君の体重くらい軽いもんだよ」って見栄を。
 少なくとも持ち上げている間は涼しい顔をしていたい。顔を真っ赤にして歯を食いしばったりしてはならないのだ。もちろん持ち上げる際に「ぃよいしょぉ!」などと気合いを入れるのは言語道断だし、おもむろに柔軟体操を始めるのもよろしくない。瞑目しての精神統一も避けた方が無難だろう。
 「えー、私はそんなの気にしないけどなぁ」と思う女性もいるかもしれない。しかしこれは男の見栄の問題であり、往々にして見栄というものは女性の評価より上位の判断基準になりうる。
 つまり、男性にとっては「軽くできて当たり前、苦戦したら沽券に関わる」というリスクのでかさがまず念頭に来てしまうわけだ。

 そして男性が自分の腕力に不安を覚えるのと同様、女性もまた“自分の体重”というファクターに不安を覚える。上の抜粋にもあるように、自分が“重い”と思われることへの懸念は、男が想像するよりずっと大きいものだろう。一昔前は女性誌の表紙に「ダイエット」の文字があるかないかで売上げが変わったという話もあるし、女性が男の見栄を馬鹿ばかしいと感じるのと同様、男性にも女性のダイエット熱を真に理解することはできまい。
 「俺は別に体重とか気にしねーよ」という男性もいるだろうし、それはそれでよい。だが「数キロ減ったくらいじゃ何も変わらなくね?」とは思っても口には出さない方が無難だ。

 もうひとつ女性がお姫さま抱っこに乗り気でない理由として思い当たる節がある。
 リサーチしたわけではないので単なる想像なのだが――自分が二本の腕だけで支えられているってのも不安要素なんじゃなかろうか。何かのはずみに落っことされでもしたら、後頭部を痛打してのたうちまわるハメになりかねない。
 抱っこされた女性が執拗に「大丈夫? 重くない?」と聞いてくるのは、謙遜でも恥じらいでもなく自分の身を案じているだけだ、というのは意地悪に過ぎる見方かもしれないが、全くの的外れとも言い切れまい。
 自分を抱きかかえている男性の筋力を不安視しているということでもあるが。


 ちょっと話は変わるが、このお姫様抱っこのルーツは古代ローマにまで遡るのだそうだ。Wikipediaによれば、結婚した二人が新居に入る際にお姫様抱っこで入ったことに由来するという。


 これは花嫁が入り口でけつまづくことが凶兆であるとみなされたことにちなみ、それが現代の洋風結婚式に継承され、これが日本にも伝わったものだと解される。



 なるほど、という感じだがその後に続く記述にちょっと疑問が残る。


体力差で女性が優位にある場合は「新郎をお姫様だっこ」した方が安全である。




 そんなこと書かなくてもいいだろ。言わぬが花ってヤツのいい見本だなこれ。
 とはいえ女性の方が何かとアグレッシブな昨今、ひょっとしたらウェディングドレスを身にまとった新婦が新郎を軽々と抱き上げるような光景も見られるようになるかもしれない。
 ただ、あまり美しいとは言えないな。そう感じるのは管理人が古いタイプの人間だからかもしれないが。

 そんなわけで、男性諸氏…特にこれから彼女なり嫁さんなりを見つけようという方々は、軽々とお姫さま抱っこできるくらいの筋力をつけておくことをお勧めする。痩せ型の人、小柄な人はギャップ萌えを誘発できる可能性があるから有利だと思います。


追記:
 余談だが、Wikipedia「お姫様抱っこ」の項では、ギャルゲー等の萌えカルチャーにも言及し「恋愛フラグの一種としても扱われる」と書いてある。なるほど分かってるなと思わされるが、以前はそれと関連させてフィンランドのスポーツ「奥様運び」についても記事中で触れていた(2010.11/01現在は関連項目扱い)。

 これは男性が「奥様」役の女性を抱えて野外に設けられたコースを疾走する競技なのだが、その運搬スタイルはとくに規定がない。つまりお姫さま抱っこでなくてもいいわけで、いきおい効率性を最重視した運搬法が発明されるわけだが…その中で定番とされる「エストニアスタイル」が画像付きで紹紹介されていた。





 これはお姫さま抱っことは断じて別のものであると言わざるを得ない。
 いかに萌えカルチャーとはいえ、これでフラグを立てるのは困難至極だろう。


「大変だ、ゾンビの群れがこっちにやってくる! 急いで逃げよう!」
「ダメ、足をくじいて走れないわ…!」
「よし、ここはエストニアスタイルで行こう。
 僕におぶさるんだ。いや、そうじゃない。逆だ。頭を下にして」

「え? こ…こう?」
「よし、次は太ももで僕の首を絞める感じで…そう。もう少しキュッと…」
「……」



 まぁ、フラグは期待できんわな。
 第三者的視点なら自然とパンチラが拝めるかもという旨味もあるだろうが、こんな格好ではありがたみも薄れる。というか、あのスタイルが「自然」なのかについてまず議論すべきだろう。

 奥様運びに関しては現在Wikipediaに項目があるのでそちらを参照してほしいが、よく考えると相当ハードな競技だぞこれ。「コースの全長は253.5m、所々砂地と草地、砂利道が混在する」とあるが、それを駆け抜けるとなると背負われる奥様の方もかなりの覚悟を要するに違いない。ヘルメット着用が義務付けられてはいるが、落っこちると痛いよこれは。

 それにしてもこのエストニアスタイル。お姫さま抱っこの亜流としては冒涜もいいところだが、徹底して効率性のみを追求したその開き直りにはいっそ清々しいものがある。これが日本ならもうちょっとこう、「奥様を運ぶ」という伝統に敬意を払ったものになったんじゃないかと思う。
 そこで勝手に提案だが、タイム以外にも芸術点を導入してはいかがか。スマートなお姫さまだっこだと大幅加点ってノリで。男性側が爽やかな笑顔を崩さなければポイント大幅アップ。
 こういうタイプの人は有利かもしれませんね↓






※過去の語ろう系更新
雑文その108・性転換(女体化)について思う存分語ろう
雑文その99・管理人が一番好きな萌え属性について語ろう
雑文その79・漫画化もするみたいだし、「葉隠」について語ろうか



その他雑談[1]へ   TOPへ戻る