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14.02/05 その202
エルフ映画のススメ――エルフ物語 ゴス・アズールの化身






 皆、エルフは好きか?
 管理人は好きだ。大好き! 嫁にしたい! というほどではないが、ファンタジーの綺麗どころとして定番の役でもあるし、飛びぬけた長寿やオークとの確執など様々なドラマを描ける下地がある。

 先日ふとしたことから上記の映画の存在を知り、まず予告を観てみたわけだが「ファンタジー世界の代名詞“エルフ族”のヒロインが大活躍!」という不自然にエルフ推しなコピーに居心地の悪さを感じた 。
 なんつーか「お前ら萌えオタだから当然エルフ好きだよね?」「ドラゴンとか興味なくてもエルフなら食いつくよね?」という足元を見透かしたイビツなマーケティングを感じる。
 味之介くんそれは被害妄想よ。お薬出しておきますねーとか言ってんじゃねぇ! いやまぁ確かに後ろ向きかもしれないけど、実際日本版のパッケージとオリジナル版のそれを比較すると、日本版がいかにバイアスかかっているかよく分かろうってもんだ。






 基本構図は似ているが、タイトルから雰囲気から全く別物である。そもそもオリジナルはエルフ推しですらない。
 まぁイビツだとかバイアスがどうとか言ったが、日本の客に手に取ってもらおうという努力はよく分かるし、その意味ではかなり頑張ったローカライズともいえる。話題性があるわけでもない無名の作品なら、まずタイトルのインパクトで訴えるのも大事には違いない。

 そんなわけで内容の話に移るが、その前に「こういう人にオススメ!」という指標を挙げておこう。


☆剣と魔法のファンタジーが大好き(+1点)
☆エルフが大好き(+2点)
☆強い女戦士が大好き(+1点)
☆オークが大好き(+3点)


 最初に言っておくと、映画としてはあまり面白くはない。予定調和とご都合主義が目立つし、冒険のロマンもスリルも乏しい。案の定、どこのレビューも「クソではないけどダメな映画」くらいの評価がほとんどだ。ただ、上記項目の合計点が3以上の人はキャラ萌えで楽しめると思う。

 前置きはこのくらいにして中身の話に移るが、エルフだけ、あるいはオークだけしか興味のないという人は以下の項目別リンクから拾い読みしてほしい。


・エルフ的には及第点
・制作陣の圧倒的なオーク推し
・イケメン枠なのに物足りない騎士





・エルフ的には及第点

 物語は予想がつく通り王道ファンタジーの物語だ。死の神ゴス・アズールの復活を目論むもくろむ闇の勢力<シャドウ>に対し、主人公の女エルフを始めとする3人の戦士が立ち向かうヒロイックファンタジーである。
 主人公たちの詳細は以下の通り。



・ネミット
 エルフ族ヒロイン。一匹狼の賞金稼ぎで、オークの呪術師を仕留めた際に「シャドウの呪い」をかけられてしまう。好戦的な性格で、過去の因縁からオークに強い憎しみを抱いている。なお本作のエルフは「桁外れの長寿」という設定はない模様。

・ケルタス
 ゴス・アズール復活を危惧する<預言者>に仕える騎士。シャドウへの対抗策を探す旅の途中でネミットに出会い、呪いを解くことを条件に協力を持ちかける。



・クルモン
 「黒きクルモン」の異名をもつオーク族の長。シャドウに従うことを拒んでいたが、権力に目がくらんだ部下に裏切られ一族から追放された。ケルタスとネミットと出会って後は利害の一致から行動を共にする。





 見ての通りエルフ+人間+オークという異色のパーティーである。この出自も目的もバラバラな3人組が、共に危機を乗り越える中で信頼をと友情で結ばれていく…というのがこの映画の描きたかった部分なのだろうが、そのへんの脚本が弱いためいまいち煮え切らない出来になっているのが残念だ。

 とはいえ、キャラ萌えで楽しむ分には結構いい線行っている。例えばヒロインであるネミットは、日本エルフ検定準2級の管理人から見てもかなりクオリティが高い。普通に美人でもあるし、耳の造形も悪くない。孤独な賞金稼ぎという王道を外した設定もいい。
 また人間に対しては一線を引いており、かつオークに強い敵意を抱いているあたりは日本風エルフのテンプレ(例:絶対オークなんかに負けたりしない!)を刷り込まれている人にもすんなり受け入れられることだろう。





 ネミットさん、冒頭でオークのお尋ね者を始末するシーンでは腕が立つように見えるが、クルモンにはあっさりあしらわれたり、オークの集団にフクロにされたりと強いのか弱いのかよく分からない。まぁくノ一と女騎士とエルフ戦士は負けてからが本番という面もあるし、その意味ではちゃんとお約束を守っていると好意的な解釈もできる。
 人に慣れない山猫みたいな印象を与えるネミットだが、もしもこの作品が日本製萌えアニメなら極めて高いポテンシャルを持ったツンデレヒロインになったことだろう。もっとも、取って付けたような恋愛要素がないのはこの映画の数少ない美点のひとつだとは思う。

 あ、他にも美点はあったな。低予算な作りではあるものの、衣装・小道具など美術面に関してはかなり頑張っているのだ。ネミットが時々着ける仮面も実にカッコいい。





 また序盤でちらっと映る町の風景は、一般人の衣装も含めそれっぽい雰囲気が出ている。映画の舞台は大半が森や岩山だし、特殊効果が総じてショボいのも予算の少なさをうかがわせるが、その範囲内でかなり良い仕事をしているといえるだろう。
 「エルフの衣装はミニスカか鎖付き首輪でしょ?」と寝ぼけたことを言ってる人もいるかもしれないが、腰布一丁で荒縄緊縛というシチュエーションがちゃんとあるので期待するといい。誰が緊縛されてるかは伏せておくけど。




・制作陣の圧倒的なオーク推し




 主人公3人の中で異彩を放っているのがこの男、オークの戦士クルモンである。オーク族を率いる長で、武骨だが誇り高き戦士として描かれている。
 和製ファンタジーにおけるオークのイメージは豚面のザコモンスターであり、エルフとみれば「こいつぁ上玉だブヒ! 結婚を前提にお付き合いして欲しいブヒ!」という役が定番だ。しかし洋ゲーでは武闘派のマッチョ種族として一定の人気があり、その意味では「今風のオーク像」を採用したといえるだろう。

 このクルモンは単に設定だけでなく役回りも恵まれている。他の2人は過去のエピソードを語りだけですませたりなど描写がおざなりな部分が散見されるが、クルモンは部下の裏切りやその結着などがちゃんと劇中で描かれており、キャラクターをしっかり立たせている。
 それのみならず、美女モンスターのセイレーンに絡まれたり、ピンチに陥ったネミットを助けたりなど「それってイケメンヒーローの役どころじゃね?」という美味しい部分も軒並みかっさらっている。普段オークに対して蔑みの視線を向けているような姫騎士気質の人も、クルモンになら「素敵! 抱いて!」って気分になること請け合いである。

 最近は日本でも「良識ある優等生なオーク」というネタが見られるが、タフなヒーローとしてのオークはまず見られない。日本で市民権を得るにはまだ道のりは遠いが、この映画その一助になれば…いや、ちょっと無理かな…。

 ただ、これはごく個人的な感想なのだが、クルモンのビジュアルには少々不満がないでもない。他のオークと比較してなんか目がつぶらだし、顔立ちもネコ科の獣をイメージしているようで若干の違和感を覚える。だからというわけではないが、「オークらしいオーク」として評価したいのがこいつ。





 映画の開始6分でネミットにブッ殺されるオークの賞金首「ファントー」。殺人・強姦・放火・聖遺物の冒涜などをやらかしているお尋ね者で、その外見も、振る舞いも、劇中で果たす役割も徹底してゲスさを発揮しており、清々しささえ感じる。
 真面目な話、ネミットがこいつを仕留める冒頭部分だけなら75点くらいあげてもいい出来だと思う。アクションシーンの拙さはどうしようもないが(全体的に役者の動きがトロい)、エルフやオークなどの亜人が住む世界観を無理なく説明し、伝統美ともいえる悪党散華も拝める。このシーンだけネミットのアイメイクが濃いが、これはこれで凄味があって悪くない。

 全体を通してみるにこの映画、オークの描写には相当力を入れている。
 人物にしてもクルモンのような義侠心あつい戦士もいれば、ファントーのようにアナーキーな悪党や、クルモンを裏切るムルグリットのような憎まれ役もおり、その他大勢のオークの皆さんも一山いくらのザコ役として場を賑わせている。




オークの皆さん


 種族ごとの存在感でいえばオークがぶっちぎりでトップだ。さらに付け加えると、冒頭でクルモンとムルグリットが争うシーンでは“オーク語”で会話している。別に標準語(?)で話していても映画的に違和感はないはずだが、製作陣の凝りようがよく分かる。
 これはもうオーク好きによるオーク好きのためのオーク映画といっても過言ではない。管理人が配給会社の人間だったら間違いなく邦題は「オーク物語」にしていただろう。
 とはいえ「オーク物語」だと客がつきそうにないのは確かだ。和製ファンタジーの立役者の水野良にしてからが「姫騎士たちの天敵とされるオークですが」などと発言するあたり、まだまだオークの夜明けは遠いと言わざるを得ない。





・イケメン枠なのに物足りない騎士

 本作で最もヒーロー度が高いのはオークのクルモンなわけだが、一方で不遇なのがイケメン枠のケルタス(人間男・騎士)だろう。
 3人の中では唯一<シャドウ>の阻止を使命として動く、ドラクエでいうところの勇者ポジションなのに、劇中では印象が薄い。使命に一途なのが災いし、ネミットと絡む部分もクルモンに取られ、人間味の薄い残念な役どころになっている。
 彼が仕える謎めいた<預言者>の思惑や、彼が心のうちに抱える虚ろさについてなど、掘り下げることでドラマに深みを出せる要素はいくつもあったのにほとんど活かせていない。




預言者

 管理人はオークが好きなのでクルモン以下オーク連中の出番が多いのは嬉しかったが、物語をきちんと整えるには直接<シャドウ>と対峙するケルタスに尺を割くべきではなかったか。
 最終目的がシャドウとの対決なのに、その旗印であるケルタスに感情移入できないとなると物語全体への共感すら得られなくなる。キャラクター主体の作品なら、その辺をもう少し考えるべきだったと思う。
 終盤における3人の存在感を比較するとこんな感じっすよ↓




 そんなわけで積極的にお勧めはできない映画ではあるが、エルフとオークに着目すればそれなりに楽しめる映画ではある。「エルフ族のヒロインが大活躍!」というコピーに反応する人にはお勧めだ。
 エルフ好き一本釣りと見せかけて実はオーク映画というトラップ映画ではあるが、オークの魅力を知るにはちょうどいい。スカイリムなど洋ゲーRPGに親しんでいる人にはすんなり受け入れられると思う。

 オーク大活躍ゲームとして知られる『World of Warcraft』の映画化企画も進んでいるというし、いずれは日本でも「オーク=マッチョ種族」という認識が定着すればいいなぁと管理人は考えている。






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