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15.01/04 その219
Shadow of Mordor――モルドール成り上がり伝説







○月×日
巷で噂になっているレンジャーを倒してやった! これで俺も小隊長だ。上の奴にアゴで使われる毎日とはおさらばだぜ。ここからどんどん成り上がって、ゆくゆくは軍団長になってやる。

○月◎日
まずは手下を増やそうと思って、ウルクどもが群れている場所に乗り込んだ。でも、そこであのレンジャーが現れやがった。一体どうなってやがる? 今度はこっちが死にそうになったんでとんずらしたが、おかげで増員は失敗だ。くそったれめ。

○月▲日
それなりに手下も増えたんで宴を開いて士気を挙げることにしたんだが、散々な結果に終わった。誰かが酒樽に毒を入れやがったんだ。手下どもは俺がやったと思い込んで襲いかかってきやがる。もちろん返り討ちにしてやったが、腹の虫がおさまらねぇ。一体誰が毒なんぞ仕込みやがったんだ。

○月♯日
最近手下どもが俺をナメてる気がするんで、俺の強さを分からせるためにカラゴルとのタイマンを張った。本当なら楽勝なはずだったが、途中でなぜか足が動かなくなったりして予想外に苦戦した。どうにか勝ったが、危うく死ぬところだったぜ。体調が悪かったのかな?

△月○日
手下を連れてグールどもの退治に行った。どうってことねぇ狩りのはずだったが、気がついたら手下がみんな死んでやがった。グールにやられたわけでもねぇのに、わけが分からねぇ。どうにか逃げ出したが、もうちょっとグールのエサになるところだったぜ…。

△月◎日
最近幅を利かせてる生意気な小隊長と決闘した。ヒョロくて弱そうな奴だし楽勝と思っていたが、また足が動かなくなったりして、結局逃げ出す羽目になった。おかげで俺の面目は丸つぶれだ。考えてみたら小隊長になってからロクなことがねぇ。下っ端の時がまだ気楽だったぜ…。

△月●日
今日、またあのレンジャーと戦った…ような気がする。よく思い出せねぇ。ただ、何か大事な命令を受けたような気がする。それが何なのか分からねぇが、とにかく守らなきゃいけないような…なんだか妙な気分だぜ。

△月$日
俺のボスである軍団長を裏切ることに決めた。軍団長がクソ強ぇのは分かっているが、何だか裏切らなきゃいけない気がする。もし俺が勝てば、俺が軍団長だ。絶対にやってやる。やらなきゃいけねぇ。



 日記はここで終わっている…。
 不自然な失敗や不可解な裏切りなどを見るに、謎の第三者の介入が伺えますね。なお始末したい軍団長の下に、洗脳した小隊長を護衛として送り込むのは定石のひとつです。
 トロフィーのひとつに「酷い反乱」というのがあるのだが、これは軍団長の護衛5人全てを洗脳しておき、戦闘で裏切らせるというもの。酷すぎて笑えてきますね。その場面を想像しただけでゾクゾクしますよ。「グヘヘヘ、こうなっちゃ軍団長サマも形無しだな? オイ野郎ども、殺っちまえ!」って気分に浸れそうだ。

 なお軍団長は登場の際に名前のコールがかかるという粋な演出があり(『フェグラト』なら\フェッグラト!/\フェッグラト!/みたいな感じ)、大ボス登場という雰囲気を盛り上げてくれるわけだが、膨大な数のオーク全てにこれが用意されてるってのは正直すげぇ。プレイヤーと対面した際の台詞や死ぬ直前の台詞も多彩だし、間違いなく史上もっともオークの個性に手間をかけたゲームだろう。





とある軍団長「ハムグラト」の最後の言葉




さらば。


 とりあえずクリアしての感想だが、敵を洗脳する<ブランド>が終盤にならないと使えないこと意外は特に不満もなく、最後まで楽しいゲームだった。
 GTAあたりと比較すればボリュームの点で劣るし、オークを狩りまくるだけという単調といえば単調なゲームデザインも批判されることが多い。だが戦闘を心行くまで楽しめるオープンワールドアクションとしてはとても満足度は高い。実際管理人はメインキャンペーンそっちのけでオークと戯れまくっていたため、エンディングに到達するまで30時間くらいかかった。
 時間のかかる主な要因はアレだな。復讐。
 適当な小隊長を殺りに行く→そいつを倒した後の乱戦でザコに殺される→成り上がったザコに復讐しに行く→そいつを倒した後の乱戦でザコに殺される→以下繰り返し。
 このあたり本作の「ネメシス・システム」の上手さを感じる。従来のように「死んだらやり直し」というゲームではないのでこっちの気持ちもリセットされず、結果としてリベンジに躍起になるし、一介のザコすら(小隊長に昇格して)復讐対象になるので、終わりのない血の連鎖が延々と続くことになる。
 あ、もうひとつこのゲームの不満点があった。ゲーム中で殺したオークの数とか、逆に殺された回数とかの累計を表示してほしかった。エンディングで見れるかなーと思ったがなかったし。これは惜しいな。実に惜しい。

 それはそれとして、シャドウ・オブ・モルドールのオークはほんとイキイキしていて見てて気持ちがいい。台詞の多彩さもそうだが、ゲーム中のシステムとしてオークの風習・慣習が取り込まれているのも見所だろう。
 上のオーク日記でも触れたが、小隊長が自らのパワーをアップさせるために起こすイベントの数々がそれである。箇条書きにするとこんな感じ。


「増員」
 主を持たないザコオークの群れに乗り込んで手下になるよう誘う。ザコオークも「俺は誰の命令も聞かねぇ!」って奴ばかりなのでブン殴って従わせるわけだが、弱い小隊長だと返り討ちにされて命を落としたりする。勧誘も命がけだ。

「宴」
 手下たちと一緒に酒盛りをして気勢をあげる。たまに歌声とか聞こえるのでわりあいまともに酒宴を楽しんでいるようだが、酒樽に毒が入ってたりすると「お前が入れたんだろ!」と乱闘が始まり、時に小隊長も命を落とす。酒宴も命がけだ。

「試練」
 手下に己の強さを知らしめるためにカラゴル(こんなの→)と1対1で戦う。重武装のマッチョ小隊長でも軽装の痩せ型小隊長でも例外はない。もちろん命がけだが、「モンスタースレイヤー」スキル持ちの小隊長だと瞬殺してしまう。

「獣狩り」
 手下を引き連れてカラゴルの群れを狩る。小隊長はともかく他の連中は大半が死ぬので、少なくとも手下は命がけだ。カラゴル狩りは食料調達も兼ねているようだが、それとは別にグールの退治なども行っている。

「決闘」
 他の小隊長とタイマンを張る。「どっちか死ぬまで戦う」のがルールらしいが、不利になると逃げ出す奴も多い。お互いの手下は成り行きを見守っているが、主人公が乱入すると手下も加わって乱戦になる。

「処刑」
 争っていたであろう小隊長を、手下が見守る中ノリノリで処刑する。洗脳した小隊長を暗殺に差し向けたら逆に処刑されかかっていることがままあり、「貴様にはガッカリだ。今すぐ死ね!」という気分になる。

「奇襲」
 野営している別の小隊長に手勢を引き連れて奇襲をかける。片方の邪魔をするつもりで乱入すると両方から襲われるので、結局どっちも殺してしまうことが多い。



 どうでしょう。万年戦国時代って感じで実に微笑ましいですね。主人公に手を貸す幽鬼がオークを評して「奴らは私たちを憎むのと同じくらいお互いを憎んでいる」と言っていたが、とにかく争わずにはいられない性分なのだろう。
 とはいえ中には忠誠心に厚い奴もいるし、仲間思いであることをアピールする奴もいたりするので、一口にオークといっても様々なのだろう。どの道みんな殺すんですけどね。


 ここまで書いてきて思ったのだが…このゲーム、オーク視点でもすごく面白くなりそうな気がする。一介のザコオークから軍団長に成り上がるのを目的にして戦ったり手下を集めたりするわけ。
 レベルが上がるごとに「遠距離攻撃無効」とか「モンスタースレイヤー」といった特性を身に付け、さらに手下どもをきっちりまとめるために「試練」で強さをアピールしたり、「宴」で士気を高めたりする内政的な手腕も問われるという感じで。手下のザコオークは使い捨てなので、減ったら「増員」で無理やり徴募します。
 あと他の小隊長との抗争も集団戦ができればなお良い。ザコオークにも白兵戦タイプや遠距離戦タイプ、重武装タイプなどさまざまな奴がいるので、そういう奴らを適所に配置して陣を敷くような遊び方もいけそうだ。

 本編そのまんまだと何度殺しても復活するチート主人公にいつ寝首をかかれるか分からないというクソゲーになるが、そこを省けば戦略SLG要素を加味したアクションRPGとしてすごく楽しい代物になるんではなかろうか。
 あとキャラクター作成も外せないね! 顔立ち、体格、体色、ペイント、装備品などを選んで自分の分身たるオークをクリエイトするわけですよ。超楽しそうでしょ? 小隊長の階級が上がれば装備もよりカッコイイものを選べたりするとなお良いね。本編でもザコから小隊長に昇格すると軒並み強そうになるし。









 真面目な話、本編を流用する形で新たなオークゲーを作ってくれませんかね? もちろん「ネメシスシステム」を活用した正統派の続編も欲しいが、オークになりきって大暴れするゲームも結構需要あると思うんだけど。きっと世のオーク好きはそういうの待ち望んでますよ。いやマジで。
 現状でも多種多様なオークを生み出すシステムが完成しているわけだし、この資産を活用しない手はないと思うんだがな。



追記1:
 冷静になって考えると…よくまぁこんなオーク尽くしの企画が通ったものだと思う。「指輪物語」の名を冠していながらホビットやエルフ、ドワーフのファンを全部切り捨て、98%がオークってバランスは無茶すぎないか。ネットでの感想を見ても「9割オークとか誰得だよ死ね」という声がチラホラあるし、「オークの面をひたすら眺め続けるのは辛い」という人も少なくないようだ。
 でもまぁ、世の中にはオーク以上に目に優しくないゾンビを山盛りにしたゾンビゲーが腐るほどあるので、それを考えれば別に突飛なゲームでもないよな。

 一応本作でも、(奴隷以外の)人間のキャラクターはちゃんと登場している。綺麗めのおネーちゃんだっていますよ?



・ヨーレス

主人公タリオンの妻。
父親はモルドールに隣接する国・ゴンドールの執政なのでいいトコのお嬢様である。 物語冒頭の時点で二十歳前くらいの息子がいるので、年齢的には40前後くらいと思われるが、それにしては若々しい。

[備考] プロローグで殺害される。




・エリン

「はぐれ者」と呼ばれるモルドール住民の女性。
主人公の同僚だったヒアゴンは彼女と恋仲になり、はぐれ者たちと共にサウロンの軍勢と戦うことを決意した。

[備考] オークにさらわれる。





・リサリエル

「ヌアンの部族民」の女戦士。
ヌアンの民は元は海賊であり、彼女もその襲撃を受けた貿易船の生き残りだった。しかしヌアンの女王マルウェン(↓)が引き取って養子にし、今では誇り高き戦士として部族をまとめているというFF5のファリスみたいな人。髪型のセットが超大変そう。
[備考] オークにさらわれるが絶対に屈しない。



・マルウェン

<岸の女王>と呼ばれるヌアンの部族民の女王。
魔法使いっぽい見た目であり劇中の役割もそれに近いが、元はバッキバキの女戦士だったらしい。

[備考] 実は見た目より若い。





 ホーラどうでしょう。無力な村娘っぽいポジションの人もいれば、「くっ…殺せ!」的な人もいるし、女王様までいる。歪んだ意味での萌えシチュエーションにも事欠きませんよ? 同人作家の方は張り切って次の夏コミで創作意欲を発揮していただきたい。あ、ホモネタはもう間に合ってますんで。



追記2:
 本更新では一貫して「オーク」という表記を用いているが、ゲーム中では基本的に「ウルク」と呼ばれている。


ゲーム中の解説↓


 ただ、指輪物語おける「オーク」は人間よりガタイがいいわけでもなく、また日光に弱いという弱点もあるため、このウルクの方が今日の洋ゲーにおけるオーク像に近い。
 また劇中でも主人公タリオンは侮蔑する時などに「オークめ」と言ったりするので、種族全体をひっくるめた用語として使われているようだ。

 また精鋭という位置づけでも弱っちい奴や臆病な奴もいるし、これといって能のない残念な奴もいる。劇中でオーク唯一のイベントキャラクターである「ラットバッグ」とかね。




 タリオンと取引して小隊長を裏切り、成り上がろうとするゲスな小悪党。他のオークからも舐められまくりなのが哀れをさそう一方、何だか妙な憎めなさがある。真面目な話、本作で一番の萌えキャラだと思う。