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16.05/15 その242
Battlefield1――金のシャベルと銀のシャベル






 むかしむかし、ある兵士が砲撃の穴にたまった泥水にシャベルを落としてしまいました。
 困った兵士がシクシク泣いていると、泥水の中から女神様が2本のシャベルを持って現れました。

「あなたが落としたのはこの金のシャベルですか? それともこの銀のシャベルですか?」

「いいえ女神様、私が落としたのは使い古した普通のシャベルです」

「あなたは正直者ですね。ご褒美に両方ともあげましょう」(ドグシャア)


* * * * * * * * * *

 殴ってよし、突いてよし。第一次大戦の塹壕戦でシャベルが武器として活躍していたのはよく知られており、現代でもスペツナズなどの特殊部隊では軍隊格闘技のひとつとして取り入れられているそうだ。「火薬と鋼」というサイトさんで詳しく述べられている。


■軍用シャベル格闘術と長いシャベル

■色々あるロシアのシャベル格闘術

■米軍のシャベル格闘術


 特に興味をそそられたのは、下記のWW1における軍隊格闘技の記事。塹壕内での戦闘に備え、武器のみならず徒手格闘においても新たな技法が考案され、現代まで連なる軍隊格闘技の礎になったのだとか。


■第一次世界大戦と軍隊格闘技


 かつてはフェンシングがベースだった銃剣術がボクシングベースのものに改められていったり、日本の柔道・柔術が注目されたりと軍隊における格闘もこの時代がひとつの転換期だったことがよく分かる。
 戦車や航空機、毒ガスなど近代兵器が続々登場したWW1だが、一方で原始的な白兵戦においても新しい時代を迎えていたというのは面白い。考えてみればWW1は新時代の戦略・戦術を手探りで組み立てていく過程でもあったわけで、塹壕戦に対応する格闘術が求められたのも当然といえるだろう。

 そんな時代を舞台にしたBF1では「格闘要素が刷新される」と発表されており、ファーストパーソン・ストライカーの登場を待ち望んでいた管理人としては期待が高まりまくるが…果たしてどの程度の「格闘要素」が盛り込まれるのだろうか。「重い武器はスイングが遅いかわりに威力がある」という形で選択の幅を広げるのは予想できるが、それはすでにBattlefield:Hardlineでやっているので「近接格闘の刷新」とはいえない。少なくとも受けたり捌いたりといった駆け引きの要素は欲しいところだが、銃撃戦主体のシューターと相性がいいようには思えない。
 そういえばWiiU及びPCで出ている『Devil's Third』は銃撃戦と白兵戦の融合をテーマに掲げていたが、出来はどうだったんだろうか。



Devil's Third




 スクショのチョイスが変? いや「Devil's Third」でイメージ検索したら最初に出てきた画像がこれだっただけですから、管理人は悪くないですよ? 多分フィニッシュムーブ的なアレじゃないかな?

 管理人的に近接格闘が面白かったFPSといえば『Shadow Warrior』(2013)なのだが、あれは怪物をバッタバッタとなぎ倒すシングルオンリーのゲームだし、BFのようなマルチプレイシューターに導入できる要素はありそうにない。WW1のゲームでシャベルから衝撃波を飛ばしたり回転斬りとかされても困るしな…。


Shadow Warrior




 高望みは禁物だと分かってはいるが、できれば今までにないような、面白い近接戦闘要素を取り入れてくれればと思う。
 一応、近年のBFは格闘要素について色々と工夫してはいるのだ。BF3からナイフキルに専用モーションが加わったし、BF4ではこれをさらに発展させてカウンターを取れるようにした。システム的には褒められたものではなかったが、ビジュアル的には軍隊格闘技っぽいカッコ良さはあった。そのへんのチャレンジ精神がいい方向に向かうように祈りたい。

 …そういえば同じDICE制作の『Mirror's Edge:Catalyst』はかなり格闘部分に力が入ってるよな。もちろん制作チームは別だが、多少のエッセンスは輸入されてるかもしれんよ? まぁ塹壕戦で飛びつき腕ひしぎ十字固めとかされてもアレだけど。
 やっぱ求められているのはシャベルだな。リーチにちょっと不安があるけど、がんばって敵兵殴るよ!


* * * * * * * * * *

 ある兵士が金と銀のシャベルのことを聞き、自分も金銀のシャベルをもらおうと、砲撃の穴に自分のシャベルを投げ込みました。
 シクシクとうそ泣きをしていると、泥水の中から女神様が2本のシャベルを持って現れました。

「あなたが落としたのはこの金のシャベルですか? それともこの銀のシャベルですか?」

「はい女神様。私が落としたのはその2本のシャベルです!」

「あなたは嘘つきですね…。罰として両方あげましょう」(ドグシャア)


この童話の教訓:砲弾孔は危険がいっぱい




追記:
 twitterを見ていると「WW1における塹壕戦で最も人を殺したのはシャベル」というつぶやきを目にするが…実際のところどうなんだろうね。
 使い慣れた道具が武器としても有効活用できるのは間違いないが、リーチに優れ、突けば即致命傷になりうる銃剣よりも効率的に敵を倒せるものだろうか。現代のシャベル格闘術にしても的確に急所を狙うテクニックが必要とされるわけで、一般の兵士がただ振り回すだけで殺傷力の高い武器になるとも思えないが…。

 ちなみに塹壕戦のイメージが強いWW1だが、最も多くの兵士を殺したのはシャベルでも機関銃でもなく大砲であり、塹壕内での白兵戦による死者は割合としてはごくわずかである。木村靖二著『第一次世界大戦』によれば、死傷者のうち銃剣・軍刀によるものはわずか0.1%に過ぎないそうだ。


一九一四〜一七年の西部戦線でのフランス軍の負傷者は、砲弾によるものが七四%であり、この率は他国の場合にもほぼ妥当すると考えられている。なお、ドイツ軍の例では、砲弾以外による戦傷者、小銃・機銃によるもの一六%、手榴弾によるもの一〜二%、毒ガスが一・七%であり、白兵戦での銃剣・軍刀による負傷者はわずか〇・一%であった。戦争映画でよく登場するような敵兵の顔を直視して戦う白兵戦は、むしろ例外であり、とりわけ一五年から陣地戦となった西部戦線では、攻防の主役はなによりも各種の砲であった。
――木村靖二『第一次世界大戦』


 ま、ゲームではそのへんうまいとこ調整してくれるだろう。
 こんな感じ(↓)の塹壕コーデでハッスルできるといいね。





 ガスマスクにスパイク付き棍棒、防弾プレート…。なんというかFalloutみたいなごった煮感ですな。これが戦争後期になるとWW2のそれにかなり近い形にまで洗練されるわけで、4年ちょっとの間にものすごい変革が起きたのがありありと分かる。
 誰かがこの時代を指して「兵器のカンブリア爆発期」と言っていたが、なるほどって感じだ。このダイナミズムこそWW1の醍醐味かもしれん。




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