12.08/20 その178 Sniper Elite V2――ヘッドショットを愛する全ての人たちへ





 つまるところ、頭部の健全性こそが、生物学的に想定するならば人間の核心だろう。頭部こそが、ひとをひとたらしめているすべての秘跡の収納所、聖骨箱であり、貴重な宝石をおさめる箱、金庫なのだ。それが破壊された光景を見ると、だれもが心穏やかではいられなくなる。

――スティーブン・ハンター『蘇えるスナイパー』


 FPS・TPSを問わず、ヘッドショットという要素はほぼ全てのシューターに搭載されている。正確に言うなら、スナイパーライフルという武器が登場するシューターには必ずといっていいほどヘッドショットの概念がある。ただ一弾でもって敵を屠るという狙撃の美学を最も雄弁に語るのは、頭部への致命的打撃――ヘッドショット以外にない。
 そのヘッドショットの視覚的快楽を極限まで追求したシューターがついに出ましたよ。『Sniper Elite V2』。とりあえず難易度ノーマルでクリアしてみたが、すごくいいねコレ。昨年のF.E.A.R.3と同様な隠れた佳作の香りがする。世間的な評価は別にしても、個人的にかなり愛おしさを感じるゲームだ。

 管理人は以前からスナイパーに特化したFPSを望んではいたが、昨年出た『スナイパー:ゴーストウォリアー』は360では出ず、悲しい思いをした。そこに来て待望の(FPSではないが)スナイパーゲーであり、久しぶりの第二次大戦モノであり、そして何より極めてクオリティの高いバイオレンスアクションであることに感激した。それが上に挙げたキルカメラである。
 一撃で敵を仕留められる場合にトリガーを引くと、一定確率でスローモーションになりカメラが弾丸を追いかける演出が入るのだが、そこからさらに着弾の瞬間に敵兵の骨格・内臓が透けた状態になり、弾丸が人体を貫き破壊する過程をまざまざと見せ付けてくる。擬音で表現すると、ド ゴ オ オ オ オ オオオズドメキドブシャアアアって感じか。

 当然これじゃ分からないと思うので、このベストショット集合動画を見てもらうのが手っ取り早い。ヘッドショットだけでなく臓器にヒットさせるバイタルショット、眼球を撃ち抜くデッドアイ、殿方の大切なものを粉砕するナッツショットなど、作りこまれた人体破壊描写には唸らされる。……ナッツショットの動画見てると陰嚢がキュンとなるな。
 国境も人種もイデオロギーも超越して全ての男たちが共有できるものがあるとすれば、それは局部への致命的打撃――金玉の痛み以外にない。本作はその金玉痛打の視覚的苦痛を極限まで追求した……まぁいいや。

 「バイオレンスアクションの要は肉体の破壊描写」というのが管理人の持論だが、このキルカメラはそれを極めて高いレベルで実現したといえる。この偏執的ともいえる作り込みは、ギャルゲーで例えるならパンチラシーンの演出及びパンツの造形に心血を注ぐのに等しい。ただしこちらはパンチラよりもファンタジックで、鮮烈で、かつ刺激的だ。実際、描写はかなりエグい。修正なしで出しただけのことはあって海外の連中の残虐趣味を余すところなく伝えている。
 これこそ大人向けの――高尚という意味ではないが――ゲームと思わされるが、CEROのレーティングはZではなくD(17歳以上推奨)。ドリームクラブZEROと同じである。


比較図



 「やだ、そんなとこまで見せちゃうの?///」度で言えばSniper Elite V2の方が上のような気がする。今時のエロ漫画でもこんな露骨な描写はしないのではと思うが、何にせよ無規制で発売できたのは喜ばしい。仮にこのX-RAYキルカメラが削除されていたら「やっぱスナイプゲーって地味だよね」と評されてその他大勢の凡作に埋もれていただろう。

 実際、ゲームプレイはわりとストイックだ。狙撃の他にステルスゲームの要素も含んでいるが、メインはどこまでいっても狙撃。いまやシューターの定番ともなった、ミニゲーム的な乗り物パートも存在しない。カットシーンもステージ終了後にちょろっと流れるくらいのものだ。人体をブッ壊す描写に力を入れまくったせいで、それ以外のデコレーションは最小限にとどめているように感じる。

 だが、それもまた個人的には加点要素だ。そもそもスナイプゲーなのだから狙撃が楽しければよいのだ。双眼鏡で敵の姿を探し、重力の影響を(高難度なら風向も)計算に入れて、トリガーを引き絞る快感こそがこのゲームの存在意義であり、他はあくまでもオマケにすぎない。
 豊富なミニゲームや凝ったカットシーンはゲームを豪華に見せるが、そのゲームの本質であるプレイの面白さに寄与しているとは必ずしも言えない。その意味でSniperElite V2は一昔前のゲームに通じる部分もあるような気もする。
 単調で変化に乏しいと感じる人もいるかもしれないが、以下のような人にはお勧めできる快作であると管理人は考える。


・シューターのマルチプレイではスナイパー一択の人
・過激なバイオレンス描写が好きな人
・最近WW2モノが少なくて寂しい人
・ドクロが好きな人
・睾丸に対して屈折した思い入れがある人
・ジェット・リー『ロミオ・マスト・ダイ』をリアルタイムで観た人


 上記のうち3つ以上当てはまる人はまず間違いなく楽しめるだろう。現時点で最高にクールなヘッドショットを堪能できるゲームであることは管理人が保証する。
 日ごろ芋スナ連中のサボタージュに歯ぎしりしている人も、たまには腰を落ち着けて狙撃の美学と悦楽に浸ってみてはいかがだろう。照準の向こう側に自分の新たな一面を発見できるかもしれない。……おい、だから股間を狙うんじゃない。



追記:
 以下は余談として、管理人が好きなスナイパーものの小説、その中でも第二次大戦を扱ったものについて書いてみたい。最近読んだ中で一番面白かったのが、デイヴィット・ロビンス『鼠たちの戦争』。





 「この世の中で」ザイツェフはそういいながら、モシン・ナガン狙撃銃をつかんで照準スコープを目に当てた。「もう一人の狙撃手と生命をかけて対決することくらい刺激的で危険なものはない」
 ザイツェフは引き金を絞った。静かな室内にカチリという音が響いた。「狙撃手はもっとも価値ある敵だ」



 有名な作品なので皆ご存知かと思うが、「史上最大の市街戦」と言われたスターリングラード攻防戦を舞台に、実在したソ連の天才スナイパーであるヴァシリ・ザイツェフとドイツの狙撃学校の校長、トルヴァルト大佐の対決を描いた小説だ。
 管理人は長い間この小説がジュード・ロウ主演の映画『スターリングラード』の原作だと思っていたが、そうではなく単に題材が同じというだけだったりする。映画の原作となったスターリングラード戦の小説は別にあり、ウィリアム・クレイグ『Enemy at the Gates』がそれらしい(映画の原題もこれに同じ)。
 実際『鼠たちの戦争』と『スターリングラード』を比較すると、大筋は同じでも登場人物の性格や役まわりが全くの別物である。特にドイツ側のスナイパー、トルヴァルト大佐のキャラは完全に別人。そもそも映画の方は「ケーニッヒ少佐」で、名前も階級も違う。

 またビジュアル的にも相当な隔たりがある。ケーニッヒ少佐はエド・ハリス演じる冷酷そうなナイスミドルだったが、トルヴァルト大佐は色白でやや太め、目だけが大きくて存在感があるという、フクロウに例えられる顔立ちとなっている。


ケーニッヒ少佐





トルヴァルト大佐



 もうひとつこのトルヴァルト大佐の面白い点は「戦争の素人」という点だろう。上流階級の生まれである彼は戦場を這いずり回った経験はなく、その卓絶した射撃技術も競技で身に付けたものでしかない。猟師として育ち、今やスターリングラードを庭場としつつあるヴァシリとはここに決定的な差がある。
 しかしトルヴァルト自身もその弱点は自覚しており、戦場で生き延びる才覚にたけた兵士――伍長にすぎないニッキ・モントを自らの案内役に任命する。この階級も年齢も育った環境も違う2人が、究極の狩人として完成されたヴァシリ・ザイツェフに立ち向かうという構図はとてもそそられる。やりようによっては相棒(バディ)ものにも成りえたのではないかとすら思う。実際には相棒というほど信頼し合う関係でもないわけだが。

 本作はこの2人のスナイパーによる対決に絡んで、ヴァシリ・ザイツェフと女狙撃手タニアとの恋や、ニッキの目を通して滅びゆくドイツ軍の悲哀も描いている。ドラマも狙撃の美学も上下巻に山盛りで詰め込まれており、大満足の作品だった。もっと早くに入手しなかったことが悔やまれる。

 映画『スターリングラード』が物足りなく感じた人には是非おすすめしたい。劇中で照準を指す「黒い十字線」という語はちょっと使ってみたくなるぞ。



追記2:
 小説ではないが、大日本絵画の専門書『ミリタリー・スナイパー―見えざる敵の恐怖』も個人的にすごくお気に入りの一冊だ。銃がまだ黒色火薬を使っていたスナイパー黎明期から現代に至るまで、“狙撃”の銃器や戦術の発展を微に入り細に入り解説している。上記のヴァシリ・ザイツェフやシモ・ヘイヘのエピソードも扱っており、読み物としても十分面白い。
 その中で、フォークランド紛争に従軍した元兵士による「スナイパーへの対処法」が印象深かったので抜粋する。


「――まず、パニックに陥らないようにすること。そしてすぐ地面に伏せる。それから電話ボックスを探して、そこまで這って行く。電話ボックスに辿り着いたら、職業別電話帳で“S”のページからスナイパーを探す。誰かひとりを選んで、そこに電話をする。つまり『泥棒を捕まえるには泥棒を使え』だ。あいにく(東フォークランド島の)グース・グリーンには電話ボックスなんてものはなかったが、私たちには無線があった。もちろん、それでスナイパーを呼んだとも」

 うん、これでいつスナイパーに狙撃されても安心だね!



追記3:
 ひとつ書き忘れた。『Sniper Elite V2』は吹き替えはなく字幕オンリーだが、ドイツ兵もソ連兵もちゃんとそれぞれの母国語で喋っている。もちろんこれにも字幕が用意されており、ドイツ兵なら戦争の行方について悲観的な会話をしているのが聞けるのだが……デフォルトだとこの敵兵の台詞字幕はオフになっている。管理人はクリア後に字幕を出せることに気付いた。
 オプション項目くらい最初に確認しておこうって教訓だね、ハハハ! 畜生!



※過去のスナイパー更新
雑文その121・FPSのスナイパーはなぜ嫌われる?

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雑文その173・「日本でミリオン出せるFPSはまだか?」
雑文その170・そろそろ第一次大戦をテーマにしたFPSをですね…
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