12.09/04 その179 Sniper Elite V2――黒い十字の向こうに君がいた





 あんなふうには死にたくない。戦場に引きだされた一万頭の牛のなかの一頭みたいに、見えない黒い十字を焼き印されて死ぬなんて。そんなのは兵士にふさわしい死にかたではない。ただの終わりだ。しかも、やや馬鹿げた終わりかた、うつぶせになって風穴を開けられた、ぶざまでひどい終わりかただ。

――デイヴィッド・L・ロビンズ『鼠たちの戦争(上)』


 『Sniper Elite V2』最高難度でクリアしました。
 いやーいいゲームだったね。だったねっていうか、今は「敵の強さ=エリート」「照準アシストあり」のカスタム難度で再プレイしているから、現在進行形でまだまだ楽しんでるんだけど。MaxPayne3が出るまでは遊び続けますよ。
 一通りプレイして改めて思ったが、シングルプレイが楽しいシューターを求めている人には自信をもってお勧めできる良作だと思う。とりあえず項目別にまとめてみたので、気になってる人は参考にしてほしい。



・難易度
 最高難度の「エリート」ではノーマルの重力に加え風が弾道を変化させ、スナイプの難易度が上がる。敵兵の攻撃力も上がり手ごわくなるが、全体として「激ムズ」というほどではない。CODシリーズを初回からベテラン攻略するようなタイプには物足りないだろうが、ヘタレゲーマーを自認する人(例:管理人)なら問題ない。


・狙撃度
 スナイプ特化ゲーだけあって最高難度では重力・風向・風速まで考慮する必要があり、撃ち甲斐がある。発射から着弾までのタイムラグもあればもっと良かったが、これは本作のキルカメラのシステム(トリガーを弾いた瞬間に命中判定を行う)と相性が悪いので、仕方のない部分だろう。
 それを差し引いてもキルカメラの素晴らしさが本作に付与した価値は大きい。着弾時の演出ばかり取り上げてきたが、銃口から放たれたライフル弾を追うアングルも複数用意されており、何回撃っても飽きがこねえ。
 狙撃や狙撃手に何のロマンも抱かない人には向かないが、そういう人も『極大射程』あたりを読ませれば多少変わってくると思うので問題ない。


・ステルス度
 場面によってはステルスプレイが推奨されるシーンがあり、そのためのサプレッサー付き拳銃もデフォルトで所持している。だが発見されても敵が無限湧きするようなこともないので、難易度に関わらずゴリ押しが可能だったりする。
 ステルスゲー愛好家なら舐めてんのかと言いたくなるような仕様だろうが、本作はあくまでも狙撃ゲーなので(個人的には)問題ない。


・ボリューム
 一周あたりのプレイ時間は…どのくらいだろ。測ってないから分からないけど、とりあえず長すぎず短すぎずといったところか(ちっとも役に立たない指標)。少なくとも一周するのに十時間以上かかったりしないし、収集要素のコンプリートを目指しても何十時間もかかったりはしないと思う。でも間を置けばまたやりたくなるゲームだと思うし、長く遊べるアクションゲームとはそういうものだと管理人は思う。
 寄り道ミッションやサブクエストがないと物足りないという人には向かないが、忙しい人にはあまり問題ない。


・リプレイ性
 ステージ構成はごく一部にわき道ルートがあるものの、基本的に一本道。ランダム要素も限られているので、それほどリプレイ性があるわけではない。しかし狙撃のキルカメラがツボに入った人は、その中毒症状が癒えるまでは繰り返しプレイする羽目になる(症例:管理人)。
 強いて難点を挙げれば、狙撃は集中力を要するので他のゲームと比べて疲れるところか。だが寝る間を惜しんでRトリガーを引き続けるようなゲーマーなら脳内麻薬でカバーできるので問題ない。


・ゴア描写
 個人的には初代GOW(日本語版)の次の次くらいに「よく日本で出せたな」と感心したレベル(次点はニンジャガ2)。頭蓋骨を破壊すると中に脳味噌が見えるし、臓器貫通時に表示される心臓、肺、腸はかなり生々しい。グロが嫌いな人にはあまりお勧めできない……が、この手の洋ゲーを好む層にそういう人はいないと思うので問題ない。


・キャラ萌え
 キャラクターが総じて薄いので、どうしても低くならざるを得ない。そもそもこのゲーム、近年珍しいくらいに名前付きの登場人物が少ない。主人公が特殊な任務を帯びたスナイパーということもあってか、戦友ポジションのキャラもいない。というか主人公以外にアメリカ兵が一切登場しないという、WW2ものとしては極めて珍しいシューターである。
 もっともキャラが多ければ良いというものではなく、無駄なカットシーンを増やしてテンポを殺しているようなゲームが世の中には多々ある。本作を好意的に見るなら、雑音を極力排除して狙撃の快楽のみを追求したとも言える。
 萌えキャラがいない代わりに、敵兵がキルカムで惨死っぷりを丹念に魅せてくれるので±0かなと個人的には思う。敵兵の顔立ちも何気にバリエーション多いのも加点要素。……誰だ!「骨格みんな一緒じゃね?」とか余計な突っ込みしてんのは!
 可愛い女性キャラにしか萌えを感じない人もいるだろうが、そういう人は脳内変換スキルを備えているので問題ない。


・ストーリー
 起伏の乏しいシナリオだが、個人的にはかなり好感触だったりする。アクションゲームに変にひねった物語などいらんというのもあるが、設定を含む雰囲気が意外に渋いのだ。そもそもの舞台設定が1945年のベルリンで、ドイツのロケット兵器「V2」の技術者を獲得する「オーバーキャスト作戦」がストーリーの軸になっている。
 この作戦はソ連にその技術を渡さないことも重視しており、すでにソ連を仮想敵とみなし出し抜こうとするアメリカの裏の顔が描かれている。主人公はスナイパーという立場からこの作戦に従事しており、ドイツ人科学者のソ連亡命を「妨害」することになる。
 表面的にはエリート工作員が無事に任務を全うしました、で終わる話なのだが、WW2の勝利が米ソ対立の冷戦への引きになっているという視点が、本作にドライな雰囲気を与えている。
 それらもゲーム中で事細かに語られたりはしない。主人公はプレイヤーと一体化し、任務を果たすべく戦い、潜み、狙撃することに専念する。テーマが明確に示されるのは、ラストにおける主人公の台詞(ネタバレ反転→)私は結果的に、冷戦における最初の兵士となった」のみである。このくらいのシンプルさでもいいと思うんですよ、アクションゲームは。単純明快でゲームプレイの邪魔にならず、それでいて読み取れるテーマはちゃんとある。

 『Sniper Elite V2』は名前の通りドイツのV2(報復兵器2号)をめぐる暗闘の物語であり、それを母胎に生まれた核ミサイルが世界を脅かした、冷戦の始まりの物語でもある。そして、戦争の勝利は次なる戦争の序曲にすぎないという暗い余韻を残す物語でもあった。
 飾り気は全くないが、意外に味わい深いストーリーといえるのではないだろうか。少なくともCOD:BOよりよっぽどブラックオプスしてたと思うし、またWW2ものに「冷戦の前日譚」という新たな切り口を提示した意義は大きい。
 ムービー・カットシーン盛りだくさんのドラマチック・シネマチック・ワンダフルチックストーリーを求める人には向かないが、そういう人はそもそもミリタリー系シューターなんてやらないと思うので問題ない。
 (ワンダフルチックって何)


・オンライン要素
 オフ専ゲーと割り切れば問題ない。



 以上、ほとんどベタ褒めに近いが、当サイトの場合なにかひとつの要素にツボったら、他も全部良い方へ解釈したレビューになるのはいつものことである。……F.E.A.R.3をあんな褒めまくったのって日本でうちだけだったんじゃないのか。
 一般的には「キルカメラが凝ってるだけの凡作」という見方が少なくないし、それもあながち的外れではないと思う。だが、大作シューターがどれも似たり寄ったりの内容になり、独創的なゲームが出にくくなっている現在、こういうワンアイデアで突っ走ったようなゲームの存在は貴重だ。

 ただ、不満点…というか惜しい部分もあるにはある。ステージ構成は基本的に一本道であること。「狙撃」をゲームシステムの根幹に据えるなら狙撃地点の選定も大きなウエイトを占めるはずだが、残念ながらそれはマップ内にあらかじめ設定されており、選択の自由はない。
 ステージのひとつに車列を爆薬で足止めするシークエンスがあるが、これも定められた手順通りに進行させるのではなく、「爆薬をどこにしかけ、どのタイミングで爆破するか」「どこから狙撃するか」「どのルートで脱出するか」をプレイヤーに委ねていれば、さらに面白くなったのではないかと思う。


 思うに、本作はまだまだ豊かな可能性を秘めていると思う。各ステージの構成をもっと練り込み、プレイヤーのスタイルに合わせて攻略法を選べるようにしてくれれば、さらにファンが増えるのではないか。また秘密作戦だけでなく戦場で戦うマークスマン・スナイパー的なミッションもあるとなお良い。プライベート・ライアンのジャクソン的なアレ。
 さらにトラップ類も増やし、今作のワイヤー、地雷だけでなく敵兵をスプリング床ではね飛ばして強酸のプールに落っことすような……失礼、これじゃ別ゲーになっちゃうね。
 とにかく、この一作で終わらせるには惜しいゲームなのだ。一番の肝であるキルカメラはV2で完成しているから、次はマップに力を注ぎ込んでグレードアップしていただきたい。きっとスナゲーの歴史に残る傑作になることだろう。
 あ、次の舞台は冷戦期でお願いします。米ソ全面核戦争の危機を孕んだあの暗い世界で、ただ一発の銃弾に全てを懸ける戦士の物語を是非!
(マクミラン大尉の面白ミッションを思い出した)(アレは冷戦後だけど)



追記:
 本作のオンライン要素は原則Coopのみだが、なんでも今年中に対戦モードが無料DLCにて実装されるらしい(日本で配信されるかどうかは不明)。もう9月じゃねーか今年っていつになんだよこれからHALO4もCOD:BO2も出るだろボケと言いたくなるが、まぁ出したいっていうんなら別にいいんじゃねーの? くらいに考えている。
 今時のシューターで対戦が標準でついてなかったのは珍しいが、そもそもこのゲームに対戦がそこまで必要なのかと疑問に思う。どこぞの伍長閣下は怒り心頭に発していたようだが。




【Sniper Elite V2】総統閣下がスナエリ日本版の発売にお怒りのようです



 「キャンペーンをクリアしてもマルチで長く遊べるから価値がある!」と伍長閣下は怒号するが、実際のところ本当にそうだろうか?
 FPS/TPSが溢れている現在、マルチで長く遊べるシューターなどほんの一握りではないのか。趣味の合うフレンドがいるなら協力プレイで長く遊ぶことも不可能ではないが、本作のような「大作未満」のシューターで長く対戦できるゲームが今現在いくつあることやら。

 個人的にはこのオッサンに穴を開ける「アドルフ・ヒトラー暗殺」(※初回特典の追加ミッション)のようなDLCを追加で出してくれた方がありがたい。
 しかし不満だけをのべるのは当サイトの流儀ではないので「個人的にこういうのが欲しい」というDLC案をいくつか挙げてみたい。


・追加武器「M1ガーランドライフル」
 このゲームは米軍兵士が主人公にも関わらず、ガーランドが存在しないという稀有なゲームである。なので追加武器で出してしまおう。連発はできるけどスコープは無し。挿弾子が排出される「キィイン!」という小気味よい音が、あなたの位置を敵兵にやさしく伝えてくれます。


問題点:

 スコープがないと難易度によっては無理ゲーになる恐れがある。



・追加モード「ビッグヘッドモード」
 FPSの伝統ギャグ、巨大頭モードでみーんなキュートに大・変・身☆ 頭部の肥大化によって敵味方ともヘッドショットの危険度がハネあがり、「視線かくして頭部隠さず」という従来よりもスリリングな攻防が楽しめる。

問題点:
 TPSなので巨大な頭部により視界が妨げられるのが難点。


・追加スキン「美女スナイパー」
 イカしたおじさま系である主人公カール・フェアバーン氏の外見が、クールなブロンド美女に大・変・身☆ 星条旗ビキニのマーベラスボディで米国の敵を悩殺よ♥(ヘッドショットの意)三人称視点の特性を活かし、魅惑のヒップで我々の集中力も逸らせてくれる。これで萌えオタ層もがっちりゲットですよ大統領!

問題点:
 そんなんで萌えオタが釣れれば苦労はしねぇ。


 あ、あとライバルキャラ欲しいね。トルヴァルト大佐みたいな、こっちとタメ張る敵のスナイパーで、ラストはそいつと一騎打ちすんの。次回作では是非ともそういう熱いノリをお願いしたいところだ。期待するだけならタダだからな!



※過去のスナイパー更新
雑文その178・Sniper Elite V2――ヘッドショットを愛する全ての人たちへ
雑文その121・FPSのスナイパーはなぜ嫌われる?

※過去のFPS雑談更新
雑文その173・「日本でミリオン出せるFPSはまだか?」
雑文その170・そろそろ第一次大戦をテーマにしたFPSをですね…
雑文その134・「JFPS/JTPSを考えるスレ」……萌えふぴーえすはまだ?
雑文その121・FPSのスナイパーはなぜ嫌われる?
雑文その76・FPSで萌え漫画作ろうぜ!
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雑文その66・スクエニが美形FPSつくるよ! 嘘だけど!
雑文その55・「泣けるゲームTOP10」……FPSは? ねぇFPSは?



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