13.08/07 その192 「艦これ」が流行ってるし駆逐艦の話でもしようか






 「艦これ」こと艦隊これくしょんというブラウザゲームが人気のようだ。

 つい先ごろもガールズ&パンツァーという女子高生+戦車というコンセプトのアニメがヒットしたと聞いているが、ストライクウィッチーズと合わせると美少女ミリタリーで陸・海・空を制したことになる。つまりアレですな。日本でFPSが受けない理由として「日本人は軍事アレルギーだから」ってのはハズレと言って差し支えないだろう。少なくともゲームやアニメなどを嗜む層にそういった忌避感はないと断言できる。

 さておき「艦これ」だが、あちらこちらでその擬人化美少女(艦娘=かんむす)のイラストを見かけるようになった。ざっと見たところ「島風」という駆逐艦が特に人気があるように見える。


近畿日本鉄道 観光特急しまかぜ



 駆逐艦。駆逐艦かぁ…。ビジュアル的には戦艦の方が人気でそうなもんだが、ずいぶん渋いところをついてくるなぁと思ったが、実は管理人も駆逐艦はちょっと好きだったりする。
 むろん駆逐艦の何たるかを知っているわけではなくゲームの話だ。数年前にも触れたが、太平洋戦争を扱ったRTS+STGの傑作『BattleStations:Pacific』での感想である。

 オマエさっきから画像おかしいだろって? うん、ごめんなさい真面目にやります。あ、でもこの金髪のおネーちゃんはマジでBattleStationsのキャラなんだよ。





 平面の美女という意味では日本が誇る二次元美少女と等価といっても過言ではない。むしろ痛爆撃機というカテゴリで考えるならアメリカの方が日本の先達と言うこともできるだろう。

 話を戻してBattleStations:Pacificの駆逐艦だが、操作していて面白いユニットだったのだ。鈍重な戦艦と比べて動かす際のレスポンスがいいし、スピードもある。その速力・機動性を活かして敵潜水艦を爆雷で倒すのが主なお仕事だが、魚雷も積んでいるので自分よりデカい艦に痛手を負わせることもできる。ささやかながら砲塔と機銃も備えているので、砲撃戦や対空戦闘も一応こなせる。一人で何役もこなす、実におりこうさんな戦闘艦なのだ。
 その反面、装甲は薄っぺらいので敵の戦艦・巡洋艦の砲撃射程に入りそうになったら一目散に逃げるしかないが、それも含めて操艦しがいがある。
 もしも艦隊を指揮するSLGではなく一隻の艦を操って戦うSTGを作るとしたら、自機は絶対に駆逐艦にした方が面白いだろう。対潜戦闘よし! 対空戦闘よし! 砲撃戦よし(戦艦の相手は勘弁な)! 輸送艦の護衛よし! むしろ輸送もよし! 何でもできる、むしろ何でもやらなくちゃいけない、そんな苦労性と表裏一体の魅力が駆逐艦にはあるのだ。

 ついでに言うと、戦艦や巡洋艦と比べて名称がイカしているのも加点要素だ。最近読んだ『第七駆逐隊海戦記』(光人社NF文庫)に書いてあったが、戦艦の名前――大和、武蔵、長門などは日本の古い国の名前から採られており、巡洋艦――妙高、愛宕などは山の名前から採られているという。重厚感あふれる命名だとは思うが、少々堅苦しくもある。
 そこへいくと駆逐艦は一味違いますよ。このあたり『第七?』の著者と管理人の感想がぴったりリンクしたので引用したい。


「深雪」「初雪」「白雪」「吹雪」となると徳川大奥三千の美女を思わせ、朧(おぼろ)、暁(あかつき)、電(いなづま)、雷(いかずち)、響(ひびき)とまことにアカ抜けして心憎い。


 いやもうホントにね。朧、暁、電、雷、響と並べると字体のいかつさもあいまって精悍な若武者を連想させる。一方でみゆき・はつゆき・しらゆき・ふぶきと並べると語感の美しさも手伝い、たおやかな美女が脳裏に浮かびそうになる。実にイマジネーションを掻き立てる、気の利いた命名ではないだろうか。
 加えて、先ほど述べた「装甲の薄っぺらさ」を勘案するとアラ不思議。薄着の女の子が脳裏に浮かびましたね? ついでに言うと『第七?』の著者は、この吹雪型駆逐艦の流麗なフォルムについて「まるで乙女の寝姿のようだ」というある詩人の評を紹介している。兵器の美少女化はもう飽きたよ、という人もいるだろうが、駆逐艦はナチュラルにこれだけの萌え要素があるということだ。
 しかしこれだけではない。著者の筆はさらにこう続く。


 この乙女の寝姿のように美しい姿が、一度大洋の荒波の中を行くとき、それはまるで廣野を飛ぶ狼であった。鋭く軽快な艦首は海を引き裂き、波浪は白雪となって散った。その爽快、まことの海の男の本懐であった。


 駆逐艦をメインとした「水雷戦隊」は、敵艦に夜襲をかけて魚雷をぶち込む戦法を得意としたという。美しいだけでなく剽悍で獰猛な「海の狼」としての貌こそ駆逐艦本来の姿といえるだろう。戦艦のような華々しさとは縁がないが、渋みのある魅力が感じられるではないか。


 ところで『第七駆逐隊海戦記』は実際に駆逐艦乗りだった著者による回想録であり、全編あますところなく駆逐艦讃歌なのだが、これがめっぽう面白い。


 上では駆逐艦の美しさ・かっこよさについての記述を引用したが、本書が主に扱っているのは著者を含めた駆逐艦の乗組員たち――「駆逐艦野郎」どもの赤裸々な生活風景だったりする。
 ここでちょっと解説が必要だが、日本の海軍には伝統的に「駆逐艦乗り気質」というものがあったそうだ。花形たる戦艦乗りや巡洋艦乗りがエリートコースの優等生とすれば、堅苦しいことの嫌いな現場主義的な気質を強く持っていた。現場主義といえば聞こえがいいし、確かに嘘ではないのだが――どっちかというと愚連隊や不良学生のノリに近い。


少尉候補生の実習を終わって少尉に任官したばかりの仕官が来艦すると、
「おい、お堅いのが来たぜ。また再教育に一苦労だ」
 と苦笑する。そして、この若い士官を一人前の駆逐艦乗りに仕立てるのに、あらゆる不善、居酒屋の味や、街の銭湯に引きずり込んだり(海軍士官は制服で街の銭湯に入ってはいけない)を教える。こうした薫陶よろしきを得て、一年も経つと彼は見紛うばかりに逞しく成長する。それに耐えられない奴は、戦艦や巡洋艦に逃げ出すのである。


 本書は主人公たる著者が駆逐艦“菊”に任官するところから始まるのだが、彼自身も海軍学校を優秀な成績で卒業した「お堅い奴」であり、先輩たちの無作法ぶりに最初は呆れ果てる。しかしいつの間にか順応し、軽口を叩きながらも荒波逆巻く大海と戦火の巷を潜り抜ける「駆逐艦野郎」へと成長するわけだ。

 このへんの成長過程はあまり丁寧には描かれていないのでビルドゥングスロマンとして読むと物足りないが、その代わりに素行のよくない乗組員たち(著者含む)のトンチキな行状は微に入り細に入り書き込んでいる。
 上陸許可をもらうために嘘八百を並べ立てたり、爆雷投下の演習ついでに魚を取ってみたり、入院先の海軍病院で美人婦長とすったもんだしたりと、武勇伝は枚挙に暇がない。一方で乗組員たちの結束は固く、ひとたび海の上に出れば見事なチームワークで艦を操り、へらず口を叩きつつも困難な航海に耐えたという。

 彼らのこういった気質は、駆逐艦という苦労の多い境遇と無関係ではない。危険な任務をあてがわれ、そのくせ賞賛されることは少ない。しかし駆逐艦乗りはむしろそれを誇りとし、「お行儀の良い」戦艦・巡洋艦乗りたちをナナメに見ていたようでもある。

 軽く小さな駆逐艦は大型艦と比べていともたやすく波に翻弄され、綿密なチームワークなくしてはたちまち危機に陥る。そのような状況では階級だの軍規だのという堅苦しい決まりごとより、純粋に「海の男」であることが求められたのだろう。

 そう考えれば、(軍隊につきものの)官僚主義的な価値観を鼻で笑うような気風が定着したとしても不思議はない。その反骨心とプライド、そして底抜けの陽気さが「駆逐艦野郎」の本質ではないかと思わされる。

 読み物として面白い反面、個々の駆逐艦についての薀蓄はあまりないが、入り口としてはわりとお勧めではないだろうか。BattleStations:Pacificでは艦上をウロウロしているだけの乗組員だが、彼らにも様々なドラマがあるであろうことが感じ取れるようになるだろう。




 ウロウロしてるだけとはいえ芸が細かいなと感心させられるが、艦がまさに沈没しようとしている際にも同じペースでトコトコ歩いているのはどうにかならなかったのだろうか。



※過去のBattlestations更新
雑文その85・BattleStations:Pacific――大空が俺を呼んでいる
雑文その80・BattleStations:Pacific――総員戦闘配置!

※過去のミリタリー更新
雑文その170・そろそろ第一次大戦をテーマにしたFPSをですね…
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