最近知ったのだが「ちく城これくしょん」という育成ゲームがあるらしい。面白トラップ満載の城を築き、攻め寄せる敵兵を虐殺するアシガル・マスト・ダイなタワーディフェンス…と思いきやさにあらず。城郭を美少女化した「お城(じょう)ちゃん」を育てて愛でるゲームらしい。
ハハーン、そんで火責め水責め兵糧攻めのあげく拙者の破城鎚を喰らえ!ってゲームなんだなこの痴れ者め!と思っていたが、お城ちゃんを育てきったら「廃城」といって自らの手で亡き者にせねばならないのだとか。この点に関してはどういう需要を見込んでいるのかいまいちよく分からない。
お城ちゃんを名城に! お城の擬人化美少女育成ゲーム ちく城コレクションが話題! (NAVERまとめ)
ま、面白いんじゃないでしょうか。「城姫クエスト」という類似の企画もあるというし、“城”ブームが来ているのかもしれんね。これらがヒットすればヨーロッパの城郭や要塞などが参戦する可能性もある。聞けば「艦これ」にもドイツ艦が登場したというし、バリエーションが増えれば話のタネも増えるってもんだ。
――というわけでアレ出そうぜ、アレ。
高射砲塔。
ミリタリー趣味をお持ちの方ならご存知かと思うが、第二次大戦時にドイツが主要都市を空爆から防衛するために建設した巨大な防空要塞である。
頂上部に連装128mm重高射砲4基8門、外縁部に4連装20mm高射機関砲4基16門という重武装で、連合軍の重爆撃機・戦闘爆撃機を迎撃し、分厚い鉄筋コンクリートで守られた内部には軍の指揮所や病院、郵便局、その他の機関が置かれ、また同時に市民の避難所としても大いに活用された。
近代都市に突如として中世の城郭が出現したような威容だが、これがベルリン、ウィーン、ハンブルクの3都市に合計8基も造られたというから、ドイツ特有のやりすぎ感を覚えずにはいられない。
なお形状については上の写真のような箱型の「第1世代」から円筒型の「第3世代」までのバリエーションがあるが、頂上部に重高射砲を備え、外殻を分厚い鉄筋コンクリートで覆っていたのは同じである。
どうです、タワーディフェンスとしてはこれ以上ないくらいうってつけの題材でしょう。『Orcs Must Die!』よりは『Castle Storm』のように“城”が直接手を下す形式のゲームデザインにすればしっくり来るだろう。重高射砲で高高度の重爆を射撃しつつ、高射機関砲で弾幕を張って戦闘機も迎撃。高射砲は俯角も取れるので、地上の敵戦車だって砲撃できます。ヒャッホウ。超楽しそう。
それはもうタワーディフェンスじゃなくてSIMPLE2000シリーズ『THE 男たちの機銃砲座』じゃないのかと言われそうだが、ドンパチだけやっていたい、ずっとトリガーを引き続けていたいという人には確実に需要はある。例えば管理人とか。
ちなみに戦車も攻撃ってのはノリで書いたわけではなく、ちゃんと実例がある。大戦末期…というかドイツ降伏直前、ベルリンに侵攻したソ連の戦車部隊が高射砲と交戦し、手痛い損害を出した。以下、部隊を率いていたジューコフ元帥の述懐。
「わが軍のベルリン心臓部への突入は一連のドイツ軍の抵抗によって一時的に阻止された。我々はティアガルテン公園付近で二〜三メートル厚のコンクリート壁を有する高さ三六メートルもの巨大な要塞塔に遭遇し、味方の重砲兵隊が砲弾を浴びせたが破壊することができず、頂上部にある重高射砲と高射機関砲がわが軍の攻撃機だけでなく、地上の歩兵、戦車、戦闘車両を攻撃した」
――広田厚司『ドイツ高射砲塔』
ソ連軍は203mm重榴弾砲(ベルリン市街戦では建物を吹き飛ばすのに活躍した)を持ち出して高射砲塔を攻撃したが、さしたる効果はなく逆に高射砲で反撃されて大きな被害を出した。そもそも高射砲は、はるか上空を時速数百キロで飛ぶ爆撃機を落とすための兵器である。地上の戦車や野砲など静止したハエを叩き潰すようなものだったろう。
この他にも“シュトルモビク”イリューシン Il-2の編隊が高射砲塔を攻撃し、4連装機関砲とやりあったらしいが……彼らがどうなったかは大体想像がつく。ソ連軍の無茶振りはいつものことだが、こんなSTGのラスボスみたいなのとやりあえと言われたパイロットには心底同情せざるを得ない。
そんな具合に(局地的には)活躍した高射砲塔だったが、質・量ともに上回る連合軍を止めることはできなかった。
主武装である128mm重高射砲は当時のドイツが持ちうる最新・最高の高射砲だったが、高高度を飛ぶ爆撃機を撃墜するには若干苦しい面もあったようである。
ドイツの対空砲は実際に、あまり命中精度が高くなかった。大戦中、敵機を一機撃墜するためには重対空砲[口径七・五〜十二・八センチ]を平均三千四百発発射せねばならなかった。敵の爆撃機編隊が大損害をこうむるのは、砲弾を濃密に集中した弾幕の中に編隊が飛び込んだ時だけだった[英国空軍の夜間爆撃は編隊を組まなかった]。
――サミュエル・W・ミッチャム『ヒットラーと鉄十字の鷲』
ドイツ人には気の毒なことだが、高射砲の効果は実際に敵に与える損害よりも、見た目の上の効果の方が大きかった。八八ミリ一九三六年式高射砲[大戦中の主力、最新型は一九四一年式]が高高度の敵機一機を撃墜するには、平均して一万六千発の砲弾が消費されていた。
――ウィリアムソン・マーレイ『ドイツ空軍全史』